研究実績の概要 |
熱に応答して発光挙動が変化する熱刺激応答性の固体発光材料は,スマートウィンドウや発光温度センサーとしての用途に期待される。しかし,従来の分子設計では加熱下で強く発光する分子開発は困難であった。そのため加熱下でも強い発光を維持できる新たな発光分子の分子デザイン,構造と特性との相関の解明が強く望まれている。そこで容易に調製可能な直線状分子から,官能基変換によって円盤状や屈曲形状,分岐形状などの多様な幾何形状をもつ液晶分子への変換技術を確立する。得られた分子の光学特性・熱特性や熱刺激応答性を精査し,構造と特性との相関の解明を目的としている。申請者の合成化学と材料化学の知見に基づき,本研究では多様な分子幾何をもつ熱刺激応答性の固体発光分子のデザイン・変換技術を提供し,『高効率・長寿命・高感度な熱刺激応答性の固体発光分子』の迅速な開発・技術的応用に貢献できる。 これまでに,フッ素化トランを基幹物質とし,炭素-炭素三重結合の三量化反応を用いた含フッ素ヘキサアリールベンゼン誘導体の合成を検討した。その結果,1,4-ジオキサン溶媒中,ジコバルトオクタカルボニル触媒存在下,フッ素化トランを120℃で加熱還流させると,[2+2+2]環化三量化反応が進行し,対応する含フッ素ヘキサアリールベンゼン誘導体が得られた。得られた含フッ素ヘキサアリールベンゼン誘導体は,1,2,4置換体と1,3,5置換体の位置異性体混合物として得られたが,それらはシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって分離精製できた。分離精製した両異性体の光学特性を調査したところ,1,2,4異性体の発光バンドが長波長側に現れる特異な挙動が観察された。また,いずれの異性体も結晶状態で発光効率が増強する凝集誘起発光特性を保持することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度以降の計画として,Diels-Alder反応による屈曲分子の合成・高分子化・特性評価,そしてカルボメタル化反応を駆使した含フッ素テトラアリールエテンの合成・高分子化・特性評価を計画し,研究期間終了までに多様な幾何構造を有する液晶性発光分子の開発と構造-特性の相関の解明を目指す。 含フッ素アルキンと各種1,3-ジエンとのDiels-Alder反応も申請者のグループで報告し (Egashira, Yamada(4/5) et al. Synthesis 2020),その知見をもとに,含フッ素トランから各種1,3-ジエンとのDiels-Alder反応を駆使した屈曲分子 (1,4-シクロヘキサジエン誘導体または,o-ターフェニル) への変換を検討する。シクロペンタジエンの利用により開環重合モノマーを合成し,高分子化も検討し,各種特性評価へ展開する。申請者のグループでは,カルボメタル化反応を駆使した含フッ素多置換アルケンの位置選択的合成を報告している (Konno et al. Org. Lett. 2004)。本研究では,その変換反応を応用し,新たな液晶性発光分子として機能する含フッ素テトラアリールエテンの合成を検討し,高分子化したのち,得られた分子の各種特性評価を実施する。
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