研究実績の概要 |
本研究の目的は,近赤外領域で効率的な光電変換が可能な有機薄膜太陽電池(OPV)の実現に向け,新たな有機半導体分子を開発することである。近赤外光は太陽光スペクトル中で比較的大きなエネルギーを占めるため,その活用は光電変換効率(PCE)の向上に大きく寄与し得る.また,近赤外光特化型の太陽電池は,可視光透過性や熱遮断性などの付加機能を取り入れたユニークな応用が期待される.しかしながら,現状ではOPVによる近赤外光電変換は低効率であり,既存材料の単純な構造改変では大幅な性能向上は難しい.このような背景のもと本研究では,近赤外光電変換の高効率化を目指し,キャリア再結合による性能低下を最小化するための分子設計指針の確立を目標とする. 研究期間の2年次目にあたる2022年度は,前年度に合成・評価した比較的単純な化合物からπ共役系を拡張し,1000nmを超える長波長吸収を持つ化合物の開発に取り組んだ.具体的には,indaceno[1,2-b:5,6-b']dithiophene(ID),に(5,6-dichloro-3-oxo-2,3-dihydro-1H-inden-1-ylidene)malononitrile(IC),およびdi(2-thienyl)diketopyrrolopyrrole(DPP)という三つのユニットから成るアクセプター分子の合成を進めた.合成条件の最適化を経て,物性評価が可能な量の目的化合物を取得することに成功するとともに,目的物の軌道エネルギー準位がアクセプター分子として十分に機能し得る程度に低いことを実験的に確認した.また,得られた化合物の薄膜状態における吸収端波長は約1100 nmであり,目標とした1000nmを超える値を達成した.
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