本研究の目的は,近赤外領域で効率的な光電変換が可能な有機薄膜太陽電池(OPV)の実現に向け,新たな有機半導体分子を開発することである。近赤外光は太陽光スペクトル中で比較的大きなエネルギーを占めるため,その活用は光電変換効率(PCE)の向上に大きく寄与し得る.また,近赤外光特化型の太陽電池は,可視光透過性や熱遮断性などの付加機能を取り入れたユニークな応用が期待される.しかしながら,現状ではOPVによる近赤外光電変換は低効率であり,既存材料の単純な構造改変では大幅な性能向上は難しい.このような背景のもと,本研究では近赤外光電変換の高効率化に向けた分子設計指針の確立に向け,新規分子の設計・合成・評価に取り組んだ. 助成期間の最終年度にあたる2023年度は,前年度合成に成功した新規アクセプター分子ID-C12DPP-ICの評価を実施した.既知のドナーポリマーと組み合わせてバルクヘテロ接合(BHJ)型のOPV素子を作製し,疑似太陽光のもと光電変換効率を測定したところ,ドナーポリマーにPBDB-Tを用いた場合に最も高い性能が得られた.しかし,そのPCEは0.2%程度に留まり,また,1000 nmより長波長の領域における外部量子効率も1%未満と低かった.一方,光電変換パラメーターの光照射強度依存性から,光照射により生成した電荷キャリアはスムーズに電極に回収されていることが示唆され,キャリア再結合による性能低下を最小化するという目標については,一定の成果を得た.
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