研究課題/領域番号 |
21K05223
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小島 隆 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70333896)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 粒子 / アルコキシド法 / 水和酸化物 / 反応性 / 多孔性 / 温水 / 水熱 |
研究実績の概要 |
本研究では、様々な水和酸化物の化学的安定性を積極的にコントロールし、その特異的な溶解性や結晶化挙動、異種金属イオンとの反応性を活かした、無機微粒子の合成手法の確立と汎用化を目指している。研究初年度である令和3年度においては、主に以下の様な成果を得た。 (1)金属アルコキシドの加水分解条件検討により、析出する水和酸化物の核生成数と化学的安定性のコントロールを個別に可能とした。この結果、水和酸化物粒子の粒径制御と、表面の溶出による多孔化の両立を達成した。従来、多孔性の水和チタニア粒子は約2μmの粒径のみでしか調製できなかったが、今回の検討では0.2~2.0μmの範囲で、それぞれ粒径を揃えて合成することができた。また、重縮合度の低い水和酸化物を原料に用いることで、結晶化後の結晶子が、より小さくなることも判明した。この成果は、無機微粒子材料の精密な設計と機能向上に大いに寄与すると考えられる。 (2)多孔性の水和チタニア粒子を高濃度のSrイオン水溶液中に浸漬することにより、金平糖状の特異形状を有するチタン酸ストロンチウム粒子を合成できた。この粒子はマイクロ径を有するにも関わらず、約240 m2 g-1という高い比表面積を有していた。これは、原料粒子における反応性の設計により、最終的に目的とする結晶相の微構造を大きく変えることが可能であることを示した重要な成果である。 (3)多孔性の水和チタニア粒子をLiイオン水溶液中に浸漬して加熱することにより、球状の粒子表面に板状晶が多数生成した花状のチタン酸リチウム水和物を得た。この粒子の酸処理により、花状の形状を維持したままリチウムを取り除き、さらに純水中での熱処理でチタニアとしての結晶性を向上させた。本成果は、適切に水和チタニアの反応性をコントロールすることで、花状等、結晶性の粒子材料を目的に合わせた形状に変換できることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、水和酸化物の化学的安定性(重縮合度)のコントロールに関する検討と、安定性の異なる水和酸化物を原料とした、単一金属酸化物への結晶化および複合酸化物への変換に関する検討を並行して進めている。 水和酸化物の化学的安定性は、金属アルコキシドの加水分解条件と、水和酸化物生成後の熟成や乾燥条件によってコントロールを試みている。この検討に関しては、これまで未検討であった反応時における金属アルコキシド濃度と、適切な加水分解触媒の検討により、従来は多孔化が不可能であった粒径領域で多孔化に成功するなど、想定通りの成果が得られている。また、研究実績の概要に示した様に、本来は想定していなかった広範囲における粒径の制御も可能となった。ただし、「水和酸化物の化学的安定性」の指標化は困難な状態であるため、今後は水和酸化物の熟成や結晶化時の化学的な変化について詳細なデータを集め、明確な指標を作成する必要がある。 水和酸化物を原料とした単一金属酸化物への結晶化に関しては、水和酸化物の化学的安定性を下げることによって、より容易に結晶化が進展することは予測していた。しかし、結晶子数の増大と、結晶子間に隙間が形成されたことによる比表面積の増大は、想定外の良い結果であった。複合酸化物への変換に関しては、研究実績の概要に示した様に、多彩な形状の粒子合成に成功している。また、その形状は、比表面積の増大に寄与し、触媒としての機能向上も確認できたことから、研究は順調に進捗していると判断できる。次年度以降に向けた予備実験でも、さらに特異的な結晶成長を確認しており、今後も成果が見込まれる。但し、単なる合成例の積み重ねでは研究が発散する恐れがあるため、特異的な構造が生まれた機構についての基礎的な検証も進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、以下の様に推進する予定である。 (1)水和酸化物中における結晶相の核生成挙動を詳細に検討する。研究初年度では、水和酸化物生成時の加水分解条件が、結晶化後の結晶性や結晶子のサイズに大きな影響を与えることが判明している。今年度以降は結晶化の過程を詳細に追跡し、その機構を明らかにすると共に、材料合成時の指針となるデータの収集を行う。これまでの検討ではX線回折法や電子顕微鏡を多用してきたが、特に結晶化初期の情報が不足していたため、ラマン分光法やX線光電子分光法による検討も進める。 (2)水和酸化物の合成条件が、結晶化後の形状に与える影響を精査する。また、特に金属イオン水溶液中での温水・水熱処理による複合酸化物への結晶化時における形態変化を利用した、特異形状粒子の合成技術確立を目指す。研究初年度において、チタニア系では金平糖状や花状の粒子を得る手法を開発している。令和4年度以降は、酸化タンタル系など、チタニア系以外の水和酸化物についても検討を進める。また、金属ナノ粒子や酸化物系粒子に水和酸化物を被覆し、さらに複合酸化物へ変換することにより、コア-シェル型の機能性粒子合成も目指す。 (3)合成した粒子の触媒活性向上に関する検討を行う。初年度における検討で、高比表面積と、取り扱いやすい粒径領域を両立した粒子材料が得られている。特に板状晶や針状晶が球状の粒子上に固定された材料は、使用時における劣化も生じにくく、耐久性の高い触媒になると期待している。また、原料である水和酸化物粒子の反応性を活かし、表面部の窒化など、酸化物系以外の化合物への変換も試みる。
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