研究課題/領域番号 |
21K05225
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
伴 隆幸 岐阜大学, 工学部, 教授 (70273125)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ゾルゲル法 / ナノ材料 / ハイブリッド材料 / 溶液化学 / 薄膜 / ナノシート |
研究実績の概要 |
金属酸ナノシートは,高い構造異方性をもつ二次元材料である。我々はこれまでに,金属酸ナノシートのボトムアップ合成法を見出している。この方法で合成したナノシートの特長を利用して,その構造異方性に起因した特性の異方性をもつ材料を作製し,興味深い物性を生み出そうと考えている。ここでは,この方法で合成した金属酸ナノシートの水に対する高い分散性を利用して,ゾルゲル法により界面活性剤とのハイブリッド薄膜を作製し,屈折率に異方性をもつ薄膜が作製できないかと考えた。そのような薄膜が,金属性の金属酸ナノシートで作製できれば,ハイパーレンズなどに応用可能な光学薄膜となることが期待される。初年度である今年度はまず,金属性の金属酸ナノシートのボトムアップ合成と,チタン酸ナノシートを用いて,ボトムアップ合成したナノシートと界面活性剤とのハイブリッド薄膜の作製について検討した。 まず,金属性の金属酸ナノシートの合成では,金属性を示すことが知られているルテニウム酸ナノシートがボトムアップ合成できた。ナノシート中のルテニウムイオンは4価であるにもかかわらず,4価よりもむしろ3価のルテニウムイオンを含む水溶性の化合物を原料に用いると,ルテニウム酸ナノシートがボトムアップ合成できることなどが見出された。 また,チタン酸ナノシートと界面活性剤のハイブリッド薄膜の作製については,いくつかのコーティング方法を検討した。その結果,チタン酸ナノシートとテトラアルキルアンモニウムイオンからなる層状チタン酸塩の薄膜をあらかじめ作製し,その薄膜を陽イオン性の界面活性剤のアルコール溶液に浸漬すると,テトラアルキルアンモニウムイオンと界面活性剤のイオン交換が速やかに起こることが明らかとなった。この方法により,ラメラ構造をもつ比較的膜質の良いハイブリッド薄膜が作製できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である令和3年度の予定は,「金属性のナノシートのボトムアップ合成」について,ルテニウム酸ナノシートのボトムアップ合成を検討することと,「ゾルゲル法によるハイブリッド薄膜の作製」について,比較的容易に調製できるチタン酸ナノシートのゾルを用いて界面活性剤とのハイブリッド薄膜の作製を検討することであった。いずれにおいても,予定通りの合成や作製ができたので,おおむね順調に研究は進展しているといえる。 「金属性のナノシートのボトムアップ合成」については,金属性を示すことが既に知られているルテニウム酸ナノシートをボトムアップ合成することを検討した。化学反応を利用することで,80°Cという従来の合成法に比べて非常に低い温度で合成できることを明らかにできた。また,特性についてよく知られていない,混合原子価のバナジウムイオンを含むバナジン酸ナノシートの特性を調べることも検討した。テトラメチルアンモニウムイオンを層間にもち,V4+とV5+の混合原子価のバナジウムイオンから成る3種類の層状バナジン酸塩を水熱合成法で作り分けることができたので,それらに対して,V4+に起因する電子の状態,結晶構造の精密化,温度変化に伴う相転移などを調べた。 「ゾルゲル法によるハイブリッド薄膜の作製」については,絶縁性ではあるものの,比較的容易に合成できるチタン酸ナノシートを用いて,界面活性剤とのラメラ構造ハイブリッド薄膜の作製を検討した。無機成分と界面活性剤からなる有機-無機ハイブリッド薄膜のゾルゲル法による作製では,一般的にそれらの混合ゾルを調製してコーティングする。しかし,ナノシートの場合,混合により沈殿が生じるという問題があることが分かった。いくつかの方法を検討した結果,先にコーティングしたナノシート薄膜にイオン交換で界面活性剤がハイブリッド化できることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
大きく分けて,「金属性のナノシートのボトムアップ合成」,「ゾルゲル法によるハイブリッド薄膜の作製」,「作製した薄膜の屈折率評価」の3つの内容について検討を進めている。 「金属性のナノシートのボトムアップ合成」については,当初の予定では,Mo3+を含むモリブデン酸ナノシートの合成も検討するつもりであった。しかし,これまで得られているルテニウム酸ナノシートやマンガン酸ナノシートは非常に面内サイズが小さいという問題がある。そこで,新たなナノシートの合成を検討するのではなく,これまで得られているナノシートの形態制御を検討することにする。ある程度大きな面内サイズで自形形態をもつナノシートを作製し,それらを敷き詰めて薄膜を作製することが薄膜特性に与える影響を明らかにする。また,層状バナジン酸塩の特性評価を初年度に行ったので,バナジン酸ナノシートのボトムアップ合成については予定通り検討し,ナノシート化が特性に与える影響について調べる。 「ゾルゲル法によるハイブリッド薄膜の作製」については,まずは,これまでに見出した作製方法で得られるハイブリッド薄膜の膜質をさらに改善することを検討する。次に,当初の予定通り,チタン酸ナノシートの代わりにルテニウム酸ナノシートやマンガン酸ナノシートを用いたハイブリッド薄膜の作製を検討する。さらに,上で述べたように,ナノシートの形態が薄膜作製に与える影響についても調べる。 「作製した薄膜の屈折率評価」については,初年度に作製したチタン酸ナノシート/界面活性剤のハイブリッド薄膜を用いて,エリプソメータにより屈折率を測定する。薄膜の屈折率の異方性を,屈折率の入射角依存性だけで評価するのではなく,この研究で作製した薄膜の屈折率異方性を評価するのに適したモデルを検討して,その評価方法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
経費の使用実績が当初の予定と異なったものの,その差額はそれほど大きいものではない。例えばルテニウム塩などの高額の試薬をもっと多く使用すると考えていたが,研究が思っていたよりも順調に進んだために,その使用量が少なくてすんだことや,成果報告する予定であった学会がオンライン開催となったことなどで,予定額との差額が生じた。その残額はそれほど大きくないため,次年度は予定通りに研究を進めて,この残額も使用する予定である。
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