本研究では,これまでに見出した「蓄電池の全固体化による正極反応の可逆性とサイクル安定性向上」に基づき,反応性の高い有機電解液との副反応で分解するため使用が見送られてきた,LiCoO2正極の高電圧動作時におけるLi+脱挿入反応に着目して,可逆的かつ安定な高エネルギー密度正極反応を検討する.高電位側に電位窓が広く化学的に安定なリン酸塩電解質と全固体モデル薄膜電池を構築して,正極反応と構造を評価する.最終年度においては,前年度に上限電圧4.6 Vの動作条件において,安定な充放電反応を示した全固体薄膜電池について,LiCoO2正極とリン酸塩固体電解質の間にパルスレーザー堆積法(PLD法)で固体電解質層を挿入し,改めて4.8 Vを上限電圧として電気化学特性を評価した.また,有機電解液を用いた液系電池と比べて優れた特性を示した薄膜固体電池について,安定な動作を示したLiCoO2正極の構造について考察した.4.8 Vを上限電圧とした電気化学特性の評価について,250 mAh/gの初回放電容量が得られるが,不可逆容量がほとんど確認されず,およそ30サイクルのうちに1割程度の容量減少にとどまり,固体電解質層を挿入することによって極めて高いサイクル安定性を示すことが明らかになった.同じ合成条件でLiCoO2正極薄膜を作製したにも関わらず液系電池では不安定な反応挙動が,一方の固体電池では安定であった.電池作製時に双方の電池で開回路電圧の値が異なっていたことから,有機電解液/LiCoO2電極界面と固体電解質/LiCoO2電極界面の界面形成時においてLi+の拡散などによってLiCoO2電極の結晶構造変化が起きていることが示唆される.以上のような電池界面形成時の初期構造変化によって,固体電解質を用いた電池系と,有機電解液を用いた電池系とで充放電反応の安定性が異なることが示唆される.
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