研究課題
本研究課題では、巨大な磁気異方性をしめす新規酸水素化物EuVO2Hに着目し、そこで実現する巨大な垂直磁気異方性の起源解明を目指して研究を推進した。研究実績の概要は以下のとおりである。(1) 様々な膜厚のEuVO2H薄膜を合成し、薄い膜厚試料ほど、大きな磁気異方性が発現することを明らかにした。X線吸収分光測定から、薄い膜厚試料ほど、Eu3+の成分が大きくなることを見出し、応力が大きく働いていることを見出した。そして、粉末試料の圧力下の実験を実施し、約16GPでEu2+の20-30%がEu3+になっていること、同時にV3+は同程度V2+になることを明らかにし、Eu2+/V3+でサイト間電荷移動が起きていることを実証した。薄膜試料では、光電子分光実験によりサイト間電荷移動にともなう金属化を確認した。物質合成・磁化測定・分光実験・薄膜・高圧による複合的アプローチにより、EuVO2Hでは、圧力や応力をパラメーターに水素層EuHと酸素層VO2の間で電荷移動が起きること、それが鍵因子となって巨大磁気異方性が発現することを明らかにした。強磁性を担うEu2+は全軌道角運動量がゼロである為、従来、ユウロピウム化合物では大きな磁気異方性がほとんどなく、本研究の遂行によって、新たな一面が拓かれた。(2) EuVO2Hのサイト間電荷移動を使うことで、同価数の元素置換でもキャリア制御できるという新たな性質を見出した。このことは通常の酸化物ペロブスカイトでは困難であった3dバンドと4fバンドを独立に制御する指針が浮き彫りになった。(3) EuVO2Hの合成で見出した「応力下のトポケミカル反応」を用いて、LaドープしたSrVO2Hなど関連化合物の物質開発に成功した。基板応力を使うことで水素イオン量を調整できること等を明らかにし、同手法が準安定化合物を薄膜安定化するのに有用なことを明らかにした。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Chemistry of Materials
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https://www.t.kyoto-u.ac.jp/ja/research/topics/20230929