本研究は、太陽光と光触媒を利用した水分解による水素製造システムで使用する、新しい波長変換材料(長波長光から短波長光を生成するアップコンバージョン(UC)材料)の開発を目的に実施した。そのために、種々のホスト材料に対して、機能性付与のための各種イオンを添加した多元系化合物をフラックス法、水熱法、ゾルゲル法などの手法によって合成した。その上で、得られた試料の結晶学的性質を評価するとともに、物質中のイオンのエネルギー準位を利用したUC発光特性を評価することで、より優れた無機波長変換材料を開発するための新しい材料設計指針を得ることを目指した。主な研究成果として以下が挙げられる。 種々の多元系酸化物をホストとして複数のランタノイドイオンを添加した試料の波長980 nmの励起光照射下での可視光発光特性において、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンや亜鉛イオンなどの共添加によって、発光強度が数十倍になるなどUC特性が大幅に改善することを明らかにした。また、マグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンの共添加によって赤色領域など特定の波長域の発光抑制が可能になることを明らかにした。さらに、増感剤としてネオジムイオンなどのランタノイドイオンの共添加が、励起光波長域の短波長側への拡張に有効であることを明らかにした。 第三イオンの共添加によるUC発光の増大は、発光中心などの対称性の低下によるものと考えられ、組成による結晶相転移を利用することで、将来的にさらなる特性改善が可能であることを示唆する結果となった。 UC蛍光体においては、適切なイオンの共添加が、大幅な特性改善や励起波長域の拡張を可能にすることを示したこれらの実験結果は、太陽光からの効率的な紫外光生成を可能とする新材料開発において有益な設計指針になると考える。
|