研究課題/領域番号 |
21K05235
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
須磨岡 淳 東京工科大学, 工学部, 教授 (10280934)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 酸化セリウム / ナノ粒子 / 核酸 / DNA / ペプチド核酸 / ゲノム / 加水分解 |
研究実績の概要 |
本研究で開発を目指す「酸化セリウムナノ粒子を触媒としたゲノム解析キット」は、DNA切断活性を持つ酸化セリウムナノ粒子と塩基配列を認識するペプチド核酸(PNA)から構成されている。本年度は、基礎的な情報を得るために、酸化セリウムナノ粒子の触媒作用を定量的に評価した。リン酸ジエステル結合を有する基質としてチミジリル(3’→5’)チミジン(TpT)を、酸化セリウムナノ粒子は市販のものを用いた。加水分解反応は、50℃、pH 7(HEPES緩衝液)で行い、ODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により評価した。その結果、反応2時間後には、基質のTpTのピークが減少し、加水分解生成物であるT(チミジン)のピークが新たに観測された。一方、3’T(チミジン3’-一リン酸)や5’T(チミジン5’-一リン酸)のピークは、わずかに観測されたのみであった。また、加水分解反応の生成物以外のピークはほとんど観測されなかった。基質TpTのピークの面積から、酸化セリウムナノ粒子1.4 mg /mLにおける擬一次反応速度定数を求めたところ半減期10 hとなり、これまでに我々が見出していた4価のセリウム塩の活性(半減期3.6時間)と遜色ない活性を有することが明らかになった。また、3’Tや5’Tのリン酸モノエステルはTpTのリン酸ジエステルより約10倍早く加水分解されることも明らかになった。TpTを加水分解した際に、3’Tや5’Tがほとんど検出されなかったのは、この加水分解速度の差によるものと考えられる。酸化セリウムナノ粒子のDNA加水分解活性を評価したところ、本研究で実現しようとしているゲノム切断キットの触媒部位として十分な可能性があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で開発を目指す「酸化セリウムナノ粒子を触媒としたゲノム解析キット」は酸化セリウムナノ粒子とペプチド核酸から構成されている。セリウムナノ粒子のリン酸ジエステル加水分解活性の定量的な評価に関してはほぼ当初の計画通りに研究が進行している。しかしながら、ペプチド核酸の合成に関してやや遅れが出ている。これは、ペプチド核酸のモノマーを生成するために用いていた高速液体クロマトグラフィーの構成ユニット(溶離液の溶存ガス除去装置)の不調により、新たに機器を購入するなどの事態が生じたことが理由のひとつである。現在、目的のPNAオリゴマーを合成し分離精製作業に取りかかっており、鋭意研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
プラスミドDNAやゲノムDNAからPCR法により増幅したモデルDNAを用いて、ペプチド核酸をdouble-duplex invasionさせた後に、酸化セリウムナノ粒子を作用させてその塩基配列特異的な切断を評価する。アミン類などのカチオンを導入したペプチド核酸やカチオン性の色素で修飾したペプチド核酸を合成し、二本鎖DNAへdouble-duplex invasion効率の向上を図る。さらに,キット化するにあたって,ビオチンをペプチド核酸の末端に結合し,ビオチン-アビジン結合を利用したビーズにより目的DNA断片のみを選択的に回収する手法を確立する。その際に、酸化セリウムナノ粒子の切断活性によっては,DNA断片の片側は制限酵素による切断で代替も視野にいれる。 酸化セリウムナノ粒子に関しては、XPSなどの分光学的手法は電子顕微鏡を用いて、粒子の形状や酸化状態とDNAの切断活性の相関を調べ、より高活性な酸化セリウムナノ粒子の構築を行う。さらに、他の金属(例えばプラセオジムなど)をドープしたようなセリウムナノ粒子の活性についても、そのDNA切断活性を評価し、ゲノム解析キットに最適なナノ粒子の開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ペプチド核酸のモノマーを生成するために用いていた高速液体クロマトグラフィーの構成ユニット(溶離液の溶存ガス除去装置)の不調により、新たに機器を購入するなどの事態が生じペプチド核酸のモノマーの合成が計画より遅れている状況である。その影響で、ペプチド核酸オリゴマーの合成に遅れが生じており、当初計画で令和3年度に購入を予定してたペプチド核酸(オリゴマー)を分取精製するための高速液体クロマトグラフィー装置の強化のための機器(当初計画ではHPLCポンプ)を令和4年度に購入することを予定してる。また、ペプチド核酸(オリゴマー)合成後の機能評価に用いる電気泳動機器関連についても、令和4年度での購入を計画している(電気泳動の電源についても当初計画では令和3年度に購入を予定していた)。その他の使用計画については、当初計画から大きな変更はなく、汎用試薬、酵素類、プラスチック消耗品などに使用する予定である。
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