研究課題/領域番号 |
21K05239
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
丸山 純 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (80416370)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 炭素材料 / らせん構造 / 光学活性 / 不斉触媒電極 |
研究実績の概要 |
らせん構造のキラル材料は、光学分割や不斉合成触媒等の重要な機能を有するため注目を集めている。最近研究代表者は、ナノ細孔が規則的にらせん配列した、全く新しい炭素材料の開発に成功している。しかし、細孔鋳型に用いたポリスチレン(PS)ナノ粒子の微小化には限度があることから、現状では、細孔サイズ、らせんピッチは数10~数100 nmであり、分子サイズとは一桁以上異なるため、幅広い展開が期待できる不斉合成触媒等への応用は困難であった。そこで、本研究では、細孔鋳型のナノ粒子を微小化し、炭素源、芯材、自己組織化法を一新して、ナノ細孔がらせん状に規則配列し、かつ光学活性分子と相互作用する非対称な空間(キラル空間)を有する炭素材料の作製を試みる。その炭素材料を電気化学反応に応用し、キラル空間を反応サイトとする、安定な不斉触媒を開発することを本研究の目的とする。 これまでの研究では、フルクトースを炭素源かつ不斉誘起源に用い、細孔の鋳型として共存させたPSナノ粒子の自己組織化を制御することにより、芯材としてのカーボンナノファイバー(CNF)上にナノ細孔がらせん配列した炭素材料を開発した。十分小さい細孔を芯材上にらせん状に配置、かつ細孔壁と芯材の間に隙間ができれば、光学活性分子と相互作用するキラル空間が形成されることが推定される。そこで本年度、新たな細孔鋳型の探索、ならびに、それに応じた原材料、自己組織化法、炭素化法の探索を行った。初めに、芯材には、これまで用いたCNFに替えて、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を用い、鋳型として、生化学分野でよく用いられる直径数nmのFe3O4ナノ粒子(NP)分散液を転用することを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
芯材のMWCNTが多孔質の層状構造中に保持されたマトリックス基材をあらかじめ作製した。トルエンを溶媒としたFe3O4 NP分散液に、炭素源のエチルセルロース(EC)、らせん方向の制御のためキラル誘起源としてビナフチル誘導体を溶解させ、トルエンの緩速乾燥によってMWCNT基材上にFe3O4 NPを自己組織化させた。次にAr雰囲気中550 °Cで熱処理してECを炭素化し、その後酸洗浄してFe3O4鋳型を除去した。 炭素化後、Fe3O4 NPが炭素薄膜に被覆された状態でMWCNT上、らせん状かつ規則的に配列していることが、走査型電子顕微鏡、透過電子顕微鏡観察により明らかとなった。Fe3O4 NPは酸洗浄により除去され、お互いに融合した炭素ナノ球殻(CHNS)が得られた。細孔は球殻内の空間として、また、球殻外壁とMWCNTの間に形成された。真空紫外円二色性(VUVCD)分光分析の結果、らせん方向に応じて正負のシグナルが観察された。 光学活性なビナフチルの水溶液、またはフェロセン誘導体のアセトニトリル溶液中、らせん状に配列したCHNSから作製した電極において、立体配置に依存した選択的な電気化学的酸化反応が進行することが見出された。これは、得られた炭素材料がキラル識別能を有することを意味する。このキラル識別機構は、これまでに報告されている機構とは異なり、球殻外壁とMWCNTが形成する、光学活性な壁面配置に起因することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた、キラル識別能を有する炭素材料を基材とし、触媒能を有する金属を担持することにより、また、本年度見出された製法を適用し、触媒能を有する窒素などのヘテロ元素を付与可能な窒素含有炭素源を用いることにより、不斉触媒電極の作製を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予備検討で作製した試料がそのまま本年度からの研究に使用できることがわかり、試料調製用試薬等が最小限で済み、また、分析機関への旅費についても、旅費が支給される広島大学放射光科学研究センターの共同研究制度を活用するなど、当初の計画より支出が少額となったため。次年度においては材料合成が必須であり、多くの試行錯誤が想定され、調製用試薬、炭素調製用器具に助成金を使用する予定である。
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