研究課題/領域番号 |
21K05246
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
松田 泰明 大阪工業大学, 工学部, 講師 (10731101)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プロトン導電体 / リン酸塩 / 新規物質 |
研究実績の概要 |
トンネル型リン酸塩は、室温から250度の温度帯で高プロトン導電率を示す物質で、既存の高分子材料や無機固体酸、MOF系材料と比べて作動温度域の広さに魅力がある。しかし、この物質は300度付近で不可逆な相転移により、プロトン拡散に適した構造をより高温まで保持できなかった。 本研究では、トンネル型リン酸塩の構成元素に着目した系統的な物質開発を行い、室温から500度の広域温度帯で10-3 Scm-1を超えるプロトン導電率を発現する新規トンネル型リン酸塩を見出した。さらに、この物質のトンネル型骨格を構成するカチオンの大きさに着目し、サイズの異なるカチオンを連続的に置換した固溶体を作成し、その熱的な安定性について調査した。その結果、AサイトおよびBサイトカチオンの平均イオン半径と相転移温度に相関があることが確認された。トンネル型の構造は、これを構成するカチオンのサイズを調整することで相転移を抑止し、骨格構造の熱的な安定性を大きく向上させることができることが分かった。また、この研究を進捗するに伴い、元素置換による合成で新たに導出された新規構造のリン酸塩が、室温から500度の広域温度帯で10-2 Scm-1に到達するプロトン導電率を発現することを発見し、その内容を論文として発表した。 水素のイオンをキャリアとして室温から中温を含む広い温度域をカバーする導電体は、プロトン、ヒドリド導電材料においてこれまで見出されていなかったが、本研究により、複合カチオンリン酸塩において、この様な特性を示す機能性材料の化合物群が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、目標とする水素を用いた次世代発電デバイスの固体電解質に求められる室温から500度の広域温度帯で10-3 Scm-1を超えるプロトン導電率を発現する新規トンネル型リン酸塩を見出した。更に、トンネル型リン酸塩の結晶構造の熱的安定性を支配する主要因について見出している。
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今後の研究の推進方策 |
見出した新規物質群について、中性子回折測定を用いた詳細な結晶構造解析を行う。得られた知見から、トンネル型リン酸塩がなぜ中温作動型プロトン固体電解質として優れた特性を示すのか追求する。機能発現に求められる結晶構造的な特徴を具体化することで、これまでの材料科学において明らかでなかった“固体中でのプロトン拡散に適した水素結合配列の構築と中温域での構造維持“についての学術的知見を提供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
中性子測定のビームタイムの調整のため、本研究で見出した新規物質の中性子測定用試料の合成を遅らせたことと、学会のオンライン参加による旅費の分、次年度使用額が生じた。翌年度は、新規物質の構造決定のための中性子測定実験のための物品や試薬の購入、および論文投稿費用として助成金と繰越金を活用する。
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