水素を用いた次世代発電デバイスのために、室温から500度の温度域で熱的安定性と高プロトン導電特性を両有するプロトン固体電解質の開発が切望されている。本研究は、上記の特性を満たす新規物質であるトンネル型リン酸塩の結晶構造と電気化学特性との相関を明らかにし、「固体中の二次結合(水素結合)の制御と機能創出」に関連する次世代エネルギーデバイス材料の設計指針の提示を目指す。 2022年度は、トンネル型リン酸塩の骨格を構成する元素と結晶構造の熱的安定性との相関を、高温X線回折測定により系統的に調査した。その結果、トンネル型構造の熱安定性を大きく決定する300度付近の相転移の有無は、骨格を構成するカチオンの平均イオン半径に依存することを確認した。プロトン導電率の向上のために、骨格カチオンの一部を欠損させ、その電荷補償としてプロトンを導入した試料は、600度付近において、トンネル型構造の部分的な分解が観測された。この挙動は、3段階目の結晶水の脱離反応とともに進行した。トンネル型構造においてカチオン欠損を含む部位の安定性の確保に、結晶水が関与する可能性が新たに提示された。 開発した新規物質について、プロトン量、温度、含水量、測定雰囲気の酸素分圧に対する電気化学特性の変化を調査した。開発したリン酸塩の導電率は、プロトン量、結晶水量に依存して向上した。結晶水の脱離が顕著となる温度域で導電率の低下が観測されるものの、最も高いプロトン導電率を示す試料では、200度付近で10-2 Scm-1に到達する高い値が得られた。開発した試料は、150度、相対湿度が一定(1%程度)の雰囲気下では、高プロトン導電率を保持した。また、酸素雰囲気や水素雰囲気において、電子伝導性は殆ど観測されなかった。これは、リン酸塩の絶縁性の高さに由来すると考えられる。本研究で得られた成果について、国内外の学会で発表した。
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