モリブデン系シアノ架橋金属錯体(M2Mo(CN)8)へのアニオン挿入脱離反応について、①アニオン挿入サイトの大きさ、②挿入脱離するアニオンの大きさ、の2つの側面から検討してきた。①ではMにZnおよび種々の配位子を有したNiを用いることでアニオン挿入サイトの大きさを制御し、②では電解質にフッ化物や塩化物、硫酸塩を用いることでアニオンのサイズを制御し、それぞれの影響を調査した。その結果、アルカリ金属イオンと同程度のサイズを持つフッ化物イオンにおいてのみ可逆的な挿入脱離反応が起こることを確認している。 研究最終年度は③電池材料としての評価に注力して検討を進めた。 電解液に非水溶媒系やイオン液体系を用いてフッ化物イオンの電気化学的挿入脱離を検討したが、水系電解液で見られたような電気化学的挿入脱離は観察されなかった。水系電解液ではフッ化物イオン濃度を10mol/L以上に容易に高めることができるが、非水系・イオン液体系ではフッ化物イオン濃度が十分高められなかったことが原因だと考えられる。さらに、水系電解液のpHの影響を調査したところ酸性~中性領域では錯体の溶解による充放電容量の低下が確認された。錯体の溶解性はアルカリ性領域では抑制されており、また、フッ化物イオン濃度が10mol/L以上の高濃度領域でさらに抑制された。 一方、酸化状態の錯体は電解液への溶解性が高まることも確認された。さらなる高容量化を目指し、M2+サイトにNi2+やCo2+などのM2+/M3+の酸化還元が可能な金属種を検討したが、前記のとおり、酸化状態における電解液への溶解反応のため、予想した多電子酸化還元反応を確認することはできなかった。 他方、電解液中に溶解させたMo(CN)8-を酸化還元種とするレドックスフロー型電池を試作したところ、充電電圧2.2V、放電電圧1.8V(対極:Zn)で動作することを確認した。
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