研究課題/領域番号 |
21K05256
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西尾 和記 東京工業大学, 物質理工学院, 特任准教授 (60805117)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 全固体Li電池 / 界面抵抗 / エピタキシャル薄膜 / 全真空プロセス / 清浄界面 / 硫化物固体電解質 / 高速充放電 / 緩衝層 |
研究実績の概要 |
エピタキシャル薄膜モデル電極を活用した全固体Li電池を作製することで、硫化物固体電解質と電極間の界面抵抗起源を定量的に探索する研究を行ってきた。本研究で、Li3PS4硫化物固体電解質とLiCoO2(001)正極間の界面抵抗は化学反応層の形成が起源であることを明らかにし、その高い界面抵抗(3.5x10^5 Ohm cm^2)はLi3PO4緩衝層を導入することで2,800倍低減し、電池動作できることを達成した。 さらに、緩衝層としてLiNbO3を選択し、その電気伝導性に着目して電池特性との相関を定量的に調べた。そして、緩衝層の電気伝導性が高まるに従い電池性能は劣化する傾向を示した。得られた結果から、高性能な緩衝層を設計するうえで固体物理の視点に基づく重要な指針を得ることができた。 さらに、5 V級正極のLiNi0.5Mn1.5O4に着目し、Li3PS4固体電解質との界面抵抗を定量評価したところ、LiCoO2同様にLi3PO4緩衝層を導入することで界面抵抗を低減して電池動作に成功した。その結果、LiNi0.5Mn1.5O4正極の場合、高速充放電(電流密度>30 mAcm^-2)を安定化させるために、負極側のLi金属-Li3PS4固体電解質間の界面に緩衝層を導入する必要性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Li3PO4緩衝層を界面に導入することで、化学反応層の形成を抑制し、原子レベルで秩序立った界面構造を維持できることを見出してきた。そして、LiCoO2やLiNi0.5Mn1.5O4正極において当初の目標値である10 Ohm cm^2以下の界面抵抗を達成している。 さらに、緩衝層としてよく利用されるLiNbO3酸化物固体電解質を選択することで緩衝層として機能するメカニズムを固体物理の視点から明らかにできた。具体的に、LiNbO3の電気伝導度を調整することで、電気伝導性が高まる(< 10^3 Ohm cm)と電池動作しない、すなわち、緩衝層として機能しなくなることを明らかにした。この電気伝導に寄与するLiNbO3におけるNbの4d軌道の電子がLi3PS4固体電解質やLiCoO2正極へ電子遷移し化学反応層を各界面で形成し、その結果、界面でLiイオン伝導が阻害される構造を形成することを示唆する結果を走査型透過電子顕微鏡像とエネルギー分散型X線や電子エネルギー損失分光による分析で得る事ができた。これらの結果から、固体物理に基づく視点で、界面抵抗の起源となる化学反応層の形成を抑制するための緩衝層材料の設計指針を得ることができた。 さらに、5 V級正極のLiNi0.5Mn1.5O4の場合、Li3PS4固体電解質を利用して高速充放電を達成するためには、負極側のLi3-Li3PS4界面構造の安定化が極めて重要であることを明らかにした。具体的に、電流密度>30 mAcm^-2で充放電させると、サイクル毎に電池容量が一定の値を示さずに不安定な動作を示す。しかし、負極側の界面(Li-Li3PS4)に酸化物固体電解質(Li3PO4)や、貴金属のPtを緩衝層として導入すると高速充放電特性が安定化し、電池内部抵抗の低減にも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
LiNbO3緩衝層を導入した定量研究においては、その緩衝層の電気伝導性に加えて緩衝層の厚みを変えることで電池特性との相関を明らかにする。これにより、界面抵抗起源となる化学反応層形成を抑制するための緩衝層の設計指針を得る。 5 V級正極のLiNi0.5Mn1.5O4正極の場合、PtをLi-Li3PS4界面に緩衝層として導入することで安定した高速充放電を達成できたため、その起源を明らかにする。具体的に、Ptナノ層が緩衝層として機能するメカニズムを解明するために、Pt-Li合金形成の仮説をたて、合金相形成を実験的に検出したり、Pt層の厚さを調整することで電池特性との相間を検証する。さらに、Ptだけではなく、他の貴金属を選択し合金相形成の重要性を検証する。具体的に、Auの導入を行い高速充放電を安定化できるか検証する。
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