研究課題/領域番号 |
21K05257
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
石原 顕光 横浜国立大学, 先端科学高等研究院, 特任教員(教授) (30754006)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中温型燃料電池 / 酸素還元触媒 |
研究実績の概要 |
昨年度は、中温域での酸素還元触媒能の評価のために、プロトン伝導性電解液として、硫酸水素ナトリウムと硫酸水素カリウムの共晶塩に注目し、共晶塩電解質を用いた。貴金属材料は評価できたので、引き続き、酸化物材料の共晶塩電解質中での電気化学評価を試みたところ、溶媒和の効果により、酸化物が徐々に溶解し、不安定であることがわかった。貴金属と異なり、酸化物の場合、電解質中での溶解により、有効電気化学表面積などの電気化学特性が変化するため、正確な酸素還元触媒能の評価が困難であることがわかった。最終的な実用化を考えた場合、安定性は必須となる。そこで、プロトン伝導セラミクスと電極触媒候補となる材料と混合し、目的である350℃付近よりも高い400℃で100時間保持することにより、複合化や分解などの進行の可能性を検討した。判断は、X線回折を用いて、熱処理により新たな結晶相が生じているかどうかを確かめた。プロトン伝導セラミクスとして、400℃以下でも、良好なプロトン伝導性を示すリチウム・ゲルマニウム・亜鉛複合酸化物を用いた。触媒候補材料として、20種類の貴金属及び酸化物を評価した。酸化ニオブと酸化鉄の場合に、新たな結晶相の生成が観察され、これら二つの酸化物はリチウム・ゲルマニウム・亜鉛複合酸化物と反応するが、他の大多数の貴金属や酸化物は、安定に存在することがわかった。最終目標は、酸化チタンや酸化ジルコニウムを触媒として用いることであるが、それらは電子伝導性に乏しく、電解質セラミクスとの複合化による、有効表面積の増大(いわゆる3相界面の形成)は容易ではない。そこで、まずは触媒として、電子伝導性酸化物である酸化イリジウムや酸化ルテニウムを用いることとして、中温域でのプロトン伝導セラミクスを用いた電気化学セルの作製を行った。次年度はそのセルを用いて、実際の作動状況を模擬した電気化学評価を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化物が、硫酸水素ナトリウムと硫酸水素カリウムの共晶塩電解液に溶解することから、酸化物に対しては、プロトン伝導セラミクスを用いた評価に切り替えた。触媒候補である20種類の貴金属及び酸化物とプロトン伝導セラミクスとの、中温域での反応性を評価するために、400℃、大気中で100時間熱処理し、結晶相の変化を調べた。その結果、酸化ニオブと酸化鉄のみが、新たな複合酸化物を形成することがわかった。ニオブと鉄は、酸化チタンや酸化ジルコニウムの結晶格子内に存在する場合に、酸素還元触媒能を向上させる役割がある。したがって、触媒の添加元素になる可能性があるが、酸化物触媒の母体にドープしてあれば、電解質との直接接触は避けられると考えられるので、不安定化は避けられる可能性がある。しかし、長期安定性は調べる必要があると考えている。また、電子伝導性酸化物である、酸化イリジウム及び酸化ルテニウムは、電解質セラミクスとも反応しないので、高価であるが、初期の酸素還元触媒の有力候補である。これらと貴金属材料を、実環境に近い雰囲気で評価できる電気化学セルを作製している。 一方で、酸化イリジウムや酸化ルテニウムは優れた電子伝導体であるが、それらの酸素還元触媒能は低温域では高くない。低温域で、高い酸素還元活性を示せば、中温域では、より高活性が期待される。また、酸化イリジウムと酸化ルテニウムは、硫酸のような酸性溶液中で安定であるため、室温付近で、硫酸溶液中で酸素還元触媒能の評価ができる。30℃で、酸化イリジウムの酸素還元活性を調べたところ、水素電極に対して0.9V付近から活性を示した。これを向上させるために、他元素の複合化を検討した。その結果、ジルコニウムとの複合化により、電気化学的有効表面積が増大し、それに伴って、酸素還元触媒能の向上も観察された。この材料の中温域での評価を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
実環境を模擬しうる、プロトン伝導セラミクスを用いた電気化学セルの作製が行えた。そのセルを用いて、まずは貴金属材料の酸素還元触媒能を評価する。これまでの報告によれば、500℃程度の温度域でも、酸素還元反応は熱励起だけでは速やかに進行できず、触媒作用が必要であると考えられているが、その詳細は必ずしも明らかではない。そこで、電気化学インピーダンス解析を用いて、まず、低温域でよく用いられている、白金やパラジウムの電気化学挙動を調べる。また、電解液ではなく、セラミクスを電解質とすることにより、安価な銀も安定な電極として用いられる可能性があるので、検討する。これでこれまで、電気化学評価が行われていない中温でもより低温域での評価が進められる。典型的な貴金属材料を用いて、100℃付近と500℃以上の結果を合わせて、統一的に理解できる可能性がある。 次いで、酸化イリジウムや酸化ルテニウムを電子伝導性酸化物として利用し、その酸素還元触媒能を評価する。酸化イリジウム単独よりも、ジルコニウムと複合化したほうが、電気化学的有効表面積が増大することがわかっているので、中温域でその効果を検証する。これらの導電性酸化物を用いて、電気化学的有効表面積、いわゆる、三相界面の形成方法を検討する。固体どうしの三相界面の形成は、固体酸化物形燃料電池で行われているが、それは酸化物イオン伝導に立脚しており、プロトン伝導のみの場合は十分に検討されていないと考えている。 その結果をもとに、酸化チタン及び酸化ジルコニウムをベースとした触媒の評価を進める。室温付近の評価によって、いずれの酸化物に対しても、鉄の添加が触媒能向上に有効であることが明らかとなっているので、その効果が中温域でどのように機能するかを検討する。最終的に、酸化チタン及び酸化ジルコニウムをベースとした酸化物が、理想的な触媒材料となりえるかどうかを評価する。
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