本研究は、超高圧力環境下で電気化学測定を行うための新たな実験技術を開発し、電池電極反応におよぼす圧力の影響を明らかにすることを目的としたものである。この目的を踏まえ、本研究では「ダイヤモンドアンビルセル(DAC)内での電気化学測定」、「高圧密閉容器内での電気化学測定」という2つのアプローチから実験技術の開発を行った。 前者は高圧実験で汎用的に使用されているDAC内に電極や電解液を導入し、圧力を加えながらの電気化学実験を目指すものである。これを実現するためには、(1)直径200マイクロメートル程度の微小領域での電極形成、(2)金属ガスケットの絶縁という2つの技術の確立が必要となる。(1)についてはリソグラフィー法で形成した導電性ダイヤモンドの利用、(2)については、金属ガスケット表面の窒化シリコンコーティングにより解決できることを確認できた。この装置をリチウムイオン電池(LIB)測定に挑戦したが、明瞭な充放電データを得ることはできなかった。これは圧力印加によって有機電解液(LiPF6/EC+DEC)が凝固し、イオン導電性を示さなくなったことが原因である。固体電解質を用いた実験にも挑戦したが、ガスケットという微小領域への均一な充填が難しく、測定の実現には至らなかった。 後者は、ケロシンを圧力媒体とした耐圧容器内に電気化学セルを導入して電気化学実験を行うものである。こちらについては、PEEK樹脂をベースとしたオリジナルの測定セルを設計し、0.4GPaまでの測定を行えるものを構築できた。上述のとおり、LIBを対象とした測定では電解液の凝固が問題となる。そこで高圧でも凝固しにくい有機溶媒の探索を行った。電解液として2-MeTHFを用いることで、約0.3GPaまで凝固しない電解液の開発に成功した。圧力の印加に伴い、電極反応の電位が数十mV程度のオーダーで変化することが明らかとなった。
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