研究課題/領域番号 |
21K05271
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
有安 真也 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (50586998)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シトクロムP450 / 擬似基質 / 末端水酸化 / 非天然基質 / 結合解離エネルギー |
研究実績の概要 |
本計画では、シトクロムP450に擬似基質を添加して、化学的に反応性の低い末端の1級炭素に選択的に水酸基を導入する技術の創製を目指して研究を行っている。2021年度は1級炭素水酸化が期待出来るP450類の探索からスタートした。これまで申請者らは、巨大菌由来の長鎖脂肪酸水酸化酵素、P450BM3(別名CYP102A1)に対して、本来の基質である長鎖脂肪酸よりも鎖長の短いカルボン酸誘導体を擬似基質として酵素に取り込ませると、サイズの小さい非天然基質に水酸基を導入することに成功している。この研究で開発された擬似基質ライブラリーを用い、まず、P450BM3の類縁酵素であるCYP102シリーズに適用したが、いずれの酵素においても、P450BM3と同じく、1級炭素への水酸化の比率が非常に低く、化学的に反応性が高い2級炭素への水酸化が優先的に進行したため、CYP102シリーズは1級炭素水酸化の候補としては適していないことが判明した。そこで、自然界において長鎖脂肪酸の末端の1級炭素に対して選択的に水酸化が可能なCYP153に着目し、その一種であるCYP153A33の遺伝子を大腸菌に形質転換し、CYP153A33の発現、精製を行った。次に、CYP153A33に対して、P450BM3用の擬似基質ライブラリーを添加して、プロパンの水酸化を検討したところ、P450BM3とは相性が悪かった擬似基質に対して、CYP153A33は強く応答しただけでなく、プロパンの1級炭素に水酸基が導入された1-プロパノールが主生成物として得られた。1-プロパノールと2-プロパノールの比率は従来のP450BM3+擬似基質の系では5:95であったのに対し、CYP153A33+擬似基質では80:20となり、CYP153A33が1級炭素水酸化酵素の候補として優れた性質を有していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画では、目的の1級炭素選択的な水酸化をシトクロムP450と擬似基質で達成するために、まず、(1)既存の擬似基質ライブラリーを用い、1級炭素水酸化に適したP450の探索を行い、(2)得られた候補P450に対し、構成アミノ酸を別の物に置換する変異導入を行い、さらに1級炭素水酸化選択性を向上する。また、候補P450に特化した擬似基質を開発することで、更なる選択性向上を目指す。(3)最後に基質認識型擬似基質開発することで、基質の両末端に水酸基を導入する計画となっている。 初年度は計画通り(1)の1級炭素水酸化酵素の候補となり得るP450の探索を行った。擬似基質は本申請計画以前に開発した巨大菌由来のP450BM3用に開発したものを用い、P450BM3(別名CYP102A1)の類縁酵素であるCYP102シリーズの1級炭素水酸化能の評価を行ったが、いずれの酵素+擬似基質の組み合わせにおいても目立った選択性の向上が得られず、本計画においてはCYP102シリーズは不適切であると判明した。一方、長鎖脂肪酸の末端1級炭素水酸化を触媒することが知られているCYP153シリーズのCYP153A33を調製し、同様に擬似基質ライブラリーを適用したところ、プロパンの水酸化において、1級炭素水酸化生成物である1-プロパノールが80%の選択性で得られ、CYP153シリーズ+擬似基質が本計画に適合していることが分かった。申請計画の(1)~(3)のうち、初年度で(1)の目的を達成したことから、進捗状況は概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度である2021年度は、目的である1級炭素選択的水酸化に適したシトクロムP450の探索を行い、CYP102シリーズが不適合であること、CYP153シリーズが適していることを明らかにした。そこで、今後の研究の推進方策としては、当初の計画通り、次のステップであるP450への変異導入と、候補P450に適した擬似基質の開発によって、更なる1級炭素水酸化選択性の向上、及び、反応効率の向上を目指す。今期、候補として見出したCYP153シリーズは結晶構造が報告されているものあり、結晶構造を基に、反応中心であるヘム周辺のアミノ酸残基に対し、別のアミノ酸に置換する変異導入を行い、活性中心付近のポケットの形状を1級炭素水酸化により適したものに最適化していく。特定のアミノ酸残基への変異による効果が弱い場合は、CYP153A33の配列中にランダムに変異が入るランダム変異を繰り返すことで、目的の選択性を向上させる指向性進化法を適用する計画である。また、今期、候補として見出したCYP153A33はCYP153シリーズの1種に過ぎず、CYP153A33への変異導入の効果が薄い場合は、別のCYP153シリーズの酵素の検討も視野に入れる。また、今期の検討で使用した擬似基質はP450BM3用に開発されたものであり、その多くはCYP153シリーズに機能しなかったことを考えると、従来の擬似基質とは異なり、CYP153A33の構造に立脚した擬似基質の開発を進めることで、変異導入との両輪で1級炭素水酸化選択性の向上、反応効率の向上を図っていく予定である。
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