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2022 年度 実施状況報告書

トランスファーRNA修飾酵素によるタンパク質品質管理機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 21K05272
研究機関産業医科大学

研究代表者

坂口 怜子  産業医科大学, 医学部, 講師 (80723197)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードイオンチャネル
研究実績の概要

生命を司る酵素・細胞骨格・抗体などを形作るタンパク質の合成機構は、全ての生物において共通であり、生命維持の根幹を成すシステムである。必要なときに必要なタンパク質を発現させる仕組みにおいて、そのアミノ酸配列を正確に翻訳することは、タンパク質の品質管理上で一番重要である。そのため、遺伝暗号に従ってリボソーム上にアミノ酸を正しい順番で運ぶトランスファーRNA(tRNA)には、その正確さを担保するための仕組みが備わっている。tRNAが機能を発揮するためには、転写後に必要な修飾を受けた上で、各コドンに対応するアミノ酸でアミノアシル化されてリボソームに取り込まれる必要がある。修飾を担う酵素が選択性や反応速度などの点で正しく機能しなくなると、誤ったアミノ酸の取り込みや読み枠のズレなどによりタンパク質の品質が低下し、生体応答に異常をきたす。特に、メッセンジャーRNAとリボソーム上で塩基対を形成して特異的なアミノ酸認識に関わる、tRNAのアンチコドン領域(34~36位)とその周辺の配列の適切な修飾は、アミノ酸を正しい配列で結合させていく上で重要である。
tRNAの修飾のうちの一つ、36位グアノシンのメチル化は、ワトソンークリック型の塩基対形成を阻害することで、タンパク質翻訳における読み枠のズレを防止する役割を担う。このメチル化を担う酵素は原核生物(TrmD)と真核生物(Trm5)で異なっており、原核生物のTrmDの欠損は致死性である。そして、原核生物の酵素のみ、その活性に金属イオン要求性がある。
そこで本研究では、この酵素活性に必須の金属イオンの細胞内濃度を制御している機構の解明を目指して、イオンチャネルの変異体の活性評価や、阻害剤の効果の検証を行なった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、TrmDとTrm5の活性制御機構の解明と両者の違いを明らかにすることを目的とした。具体的には、酵素の活性中心における金属イオン要求性やその上流でイオン濃度を制御する分子実態の探索、その制御が機能しない場合の応答の変化と疾病との関連性の解明を目指している。本年度は、細胞内の金属イオン濃度を制御するイオンチャネルの分子実体の候補として、外界の環境変化を感知してCa2+などを細胞内に流入させる非特異的陽イオン透過チャネルであるTransient Receptor Potential (TRP) チャネルファミリーの機能評価を行なった。
TRPファミリーは温度、 pH、レドックス環境、機械刺激など、それぞれが固有の刺激で活性化することが知られている。そして、当研究室では、哺乳類において同定されている全28種類のTRPチャネルのクローンを所有している。これらのクローンを元に、膵炎や腎障害などの疾病患者から同定されてきた10種類以上のTRPチャネル変異体を作製した。モデル生物としてHEK293細胞や膵臓由来細胞、腎臓由来細胞を用いて、作製した変異体を遺伝子導入により発現させ、細胞内Ca2+濃度の変化を測定した。評価した変異体のうち、数種類は細胞内へのCa2+流入量が減少し、数種類はCa2+流入能力が上昇していることを見出した。さらに、チャネル機能が異常に向上した場合に発症する疾病モデルにおいて、阻害剤を投与することによって病態が抑制されることが分かった。

今後の研究の推進方策

前年度までの成果で、HEK293細胞や膵細胞、腎細胞をモデル生物として用いて、膵炎や腎障害の患者から同定されたTRPチャネルの様々な変異体を遺伝子導入により発現させ、細胞内Ca2+濃度の変化を測定したところ、複数の変異体でCa2+流入能力が変化(向上、低下の双方)していることが明らかになった。これは、患者の細胞内のCa2+濃度の定常レベルが通常とは異なっていることを示唆している。
今後の方針として、各変異体の、Ca2+以外の金属イオン(Mg, Zn, Fe, Coなど)に対する透過性を評価する。また、見出されてきた機能異常が、細胞内金属イオン濃度の恒常性とTrmD酵素活性に与える影響を評価するため、TrmDを大腸菌発現系で発現・精製し、各TRPチャネルとの相互作用の有無をpull-downアッセイで試験する。さらに、TRPチャネルの野生型並びに各変異体を発現させたtRNAを抽出して、LC-MSを用いて36位グアノシンのメチル化修飾の効率を定量する。この評価は米国Thomas Jefferson大学のHou教授との共同研究として行う予定である。何も発現させていない状態の細胞と比較して変化が見られたチャネルが見出された場合、各種阻害剤や遺伝子ノックダウン法と組み合わせて、TrmD活性に必須な金属イオンの制御機構を同定することを目標とする。

次年度使用額が生じた理由

研究遂行に必要な細胞培養皿・試薬類の購入にあたり、所属している研究室で進行している他の研究課題で使用する分と共に一括購入したため単価が下がり、当初予定していた予算より安い価格で購入する事が出来た。また、大学の運営する共同利用研究センターの機器類を積極的に活用することにより、所属研究室で所有している蛍光顕微鏡類のランプなどにかかる経費を削減できた。
一方で、現地参加を予定していた一部の会議や研究会について、感染症対策のためにオンラインに切り替えたので旅費が削減できた。さらに、所属研究機関独自の競争的研究助成を受給する事が出来たので、一部の物品をそちらの予算で購入した。その結果、予算の余剰が生じた。
余剰予算は次年度において、研究補助のための大学生の謝金として使用し、最終年度における研究の加速を図る予定である。一方で、研究立案当初想定していなかった海外との共同研究で、頻繁に解析のためのサンプルを海外に輸送する見込みであることから、その輸送費用としても使用する予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)

  • [雑誌論文] Photoactive carbon monoxide-releasing coordination polymer particles2022

    • 著者名/発表者名
      Carne-Sanchez Arnau、Ikemura Shuya、Sakaguchi Reiko、Craig Gavin A.、Furukawa Shuhei
    • 雑誌名

      Chemical Communications

      巻: 58 ページ: 9894~9897

    • DOI

      10.1039/d2cc03907a

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] A two-step screening to optimize the signal response of an auto-fluorescent protein-based biosensor2022

    • 著者名/発表者名
      Tajima Shunsuke、Nakata Eiji、Sakaguchi Reiko、Saimura Masayuki、Mori Yasuo、Morii Takashi
    • 雑誌名

      RSC Advances

      巻: 12 ページ: 15407~15419

    • DOI

      10.1039/d2ra02226e

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Critical contributions of pre-S1 shoulder and distal TRP box in DAG-activated TRPC6 channel by PIP2 regulation2022

    • 著者名/発表者名
      Mori Masayuki X.、Okada Ryo、Sakaguchi Reiko、Hase Hideharu、Imai Yuko、Polat Onur K.、Itoh Satoru G.、Okumura Hisashi、Mori Yasuo、Okamura Yasushi、Inoue Ryuji
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 12 ページ: 10766

    • DOI

      10.1038/s41598-022-14766-x

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] PAN腎症モデルラットに対するTRPC3/6チャネル阻害剤L862による蛋白尿改善2023

    • 著者名/発表者名
      坂口 怜子、松田 由宗、岡田 亮、木稲 真利慧、永田 龍、森 誠之
    • 学会等名
      第100回 日本生理学会大会
  • [学会発表] TRPC5-Caveolin-1-eNOSシグナルタンパク質複合体が内皮細胞におけるCa2+とNOシグナル調節に果たす役割2023

    • 著者名/発表者名
      坂口怜子,森誠之, 森泰生
    • 学会等名
      第52回日本心脈管作動物質学会
  • [産業財産権] 腎臓疾患の予防および/または治療用医薬組成物2023

    • 発明者名
      永田龍,猪阪善隆,山本毅士,余西洋明,森誠之,坂口怜子,岡田亮
    • 権利者名
      永田龍,猪阪善隆,山本毅士,余西洋明,森誠之,坂口怜子,岡田亮
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      PCT/JP2023/7230
    • 外国

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公開日: 2023-12-25  

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