研究課題/領域番号 |
21K05276
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 亮 大阪大学, 大学院理学研究科, 講師 (30596870)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糖タンパク質 / 水和 / 糖ペプチド / 水素重水素交換 / ケモカイン / RGD |
研究実績の概要 |
本年度はまず、ケモカイン糖タンパク質CCL1の合成と機能解析を行なった。初年度に確立した新規ワンポットペプチド連結法を鍵として、糖鎖構造の異なる三種類の糖タンパク質CCL1を合成した。これらと糖鎖のないCCL1の4基質を利用し、ケモカイン活性試験にて一般的に利用される、細胞内カルシウム濃度変化の計測を行なった。この結果いずれの合成糖タンパク質も活性を有することを確認した。以上の結果から、新規合成法が活性のある糖タンパク質を合成できることを実証した。 続いて、糖タンパク質上の糖鎖がどのように水と相互作用しているのかを調べるために、重水中での水素重水素交換実験を行なった。この実験から、タンパク質や糖鎖が分子レベルでどのような化学的環境下にいるかを推測することができる。この結果、糖鎖周辺では非常に速い重水素化が起こることをを見出し、タンパク質上の糖鎖は、強固な分子内水素結合などをとることなく周辺の水分子と自由に相互作用していることが示唆された。また、この際の水分子との相互作用の程度は、糖鎖構造によっても変化することも見出した。 さらに、小型の複合糖質である糖ペプチド誘導体の合成についても検討を進めた。本年度は糖-Thr誘導体を原料とした、環状糖ペプチド合成の検討を行なった。この結果、C-末端がチオエステル、または、チオエステルと等価な反応性をもつ官能基で活性化されたペプチド誘導体を合成するとともに、チオエステル法による環化反応に成功した。これにより、目的とする基質の一つであるGalNAc残基をもつ環状RGDペプチドを合成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究での目標は、糖タンパク質、糖ペプチドという異なる分子サイズの視点から「水を介した糖の複合糖質活性調節能」の検証を目標としている。この内、より合成が困難と予想された糖タンパク質CCL1について、糖鎖構造を変えた系統合成法の確立が完了するとともに、HDX実験による糖鎖周辺の水との相互作用の様子を捉えることに成功している。この結果は、計画当初、3年目にもかかる可能性を予想したことを考慮すると、これまでの研究については、予定通りまたはそれ以上のペースで順調に進行しているといえる。このため、これらの知見をもとに、さらに当初の計画に上乗せして、別のタンパク質における糖鎖による機能制御を調べる、応用実験にも着手できると考えている。一方糖ペプチドについても合成の目処がたち、3年目には、3-4基質程度の基質での機能解析を行うことができる見通しであることからも、研究計画全体として十分に順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
糖タンパク質CCL1については、必要に応じた再合成を継続的に行うとともにHDXデータの蓄積を行うことで、タンパク質上での糖鎖ー水分子間での相互作用の詳細を調べていく。これらの実験と併せて、糖鎖構造の違いによる活性の違いをより詳細に調べる予定である。以上については当初の実験計画より十分に早く進行しているため、さらに追加の研究として、もう一つ別のタンパク質において糖鎖を付加させた糖タンパク質を合成し、糖鎖の親水性を介したタンパク質機能制御を調べるための応用実験を実施したいと考えている。また、小型複合糖質模倣体である環状RGD糖ペプチドについては、異なる糖構造の誘導体を合成し、これらと標的分子であるインテグリンとの結合能を調べていく予定である。
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