研究実績の概要 |
本年度は昨年度合成条件を確立した化学合成糖タンパク質ケモカインCCLを利用した水素重水素交換実験と、応用研究として別の小型タンパク質を用いた糖鎖によるタンパク質機能改変を検討した。まずCCL1について、糖鎖構造が異なる誘導体、並びに糖鎖のない誘導体の合成に成功した。これら誘導体の新規合成については学術論文に発表済みである(Chem. Comm. 59 (2023) 13510-13513)。これらを用いて重水中での水素重水素交換実験を行なった。この実験の結果、糖鎖は構成糖残基の数に応じて水分子との相互作用能が上昇し、タンパク質上に特異な水和層を形成していることが示唆された。これを踏まえ、天然で糖鎖修飾されていないタンパク質であっても、糖鎖を付加することで水を介してその分子認識に影響を与え、機能を改変できるのではないかという新しい仮説に至った。そこでCCL1とは別の小型のタンパク質を利用し、これに新たに糖鎖を導入した人工糖タンパク質の化学合成を応用研究として実施した。得られた人工小型糖タンパク質と、受容体タンパク質との結合親和性を調べたところ、糖鎖は母体のタンパク質部分の結合親和性を有意に変化させるということを明らかにした。この結果は、今後アミノ酸配列に寄らないタンパク質の機能改変という新しい原理の確立を示唆する画期的な結果であると言える。また、小型の複合糖質である糖ペプチドについて、昨年度確立した合成法をベースとして、糖構造を改変した種々の環状RGD糖ペプチドの合成を行なった。この結果、Glc, Gal, GalNAcをもつ環状RGD糖ペプチド合成にも成功した。この一部を利用しSPR実験を開始するに至った。今後本手法で得られる誘導体を利用し、活性評価もあわせた機能解析を通して、糖の微細な構造の違いと糖ペプチドの機能間での厳密な活性相関研究が可能である。
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