研究実績の概要 |
糸状菌L-リシン酸化酵素(LysOX)と放線菌L-グルタミン酸酸化酵素(LGOX)は基質特異性が厳格であるため,バイオセンサーとして利用されている。最近我々はLysOXが大腸菌において微弱な活性を示す前駆体として発現し,N末端77残基のプロペプチドが切断されて,耐熱性と活性が向上することを明らかにした。LysOX成熟化機構を解明するため前駆体と基質複合体のX線構造解析を行った。その結果プロペプチドが基質認識に重要な残基を含むヘリックスに構造変化を誘起し, 活性が阻害されていることが判明した。さらに高濃度基質存在下ではプロペプチドがディスオーダーし, 成熟体と同じ構造で基質を認識する事が判明した。また基質認識に最も重要な活性中心残基Asp212への飽和変異導入により,本残基側鎖負電荷がリシンに対する高い触媒効率と厳格な基質特異性に寄与することが示された。基質側鎖の認識に重要な水素結合ネットワークを構成するAsp315に関しても,変異により活性と基質特異性に変化が見られたため重要であることが分かった。構造比較解析と変異導入解析により,Trp371は高基質特異性のL-アミノ酸酸化酵素(LAAO)に共通して存在しており活性中心のゲートとして基質の取り込みと固定に重要であることが示された。一方, L-グルタミン酸酸化酵素(LGOX)についてはR305E変異酵素がL-アルギニンに対して厳格な基質特異性を示し, L-アルギニン定量に有用であることが示された。さらにX線結晶構造解析の結果, 基質のグアニジノ基はGlu305, Asp433, Trp564, Glu617により認識されていた。新たにLGOXにおいて基質認識に関与する可能性が見出されたGlu617に飽和変異導入を行った結果,活性の低下と基質特異性の変化が見られ,本残基は厳格な基質認識に関与する残基であることが明らかとなった。
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