研究課題/領域番号 |
21K05280
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
高田 忠雄 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (60511699)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DNA / バイオセンサー / プラズモニクス / 光電流 / 近接場光 / 等温連鎖反応 |
研究実績の概要 |
感染症診断、がん診断、遺伝子解析といった医学領域で、体液(尿、血液、粘液)由来の核酸(DNA、RNA)を対象とした高感度検出技術への要求が増している。本研究グループはこれまでに、DNAの固有の分子認識能力と電子移動特性に焦点を当て、核酸の高感度検出を可能にする光電気化学センサーの開発に取り組んできた。本研究では、より迅速かつ感度の高い検出技術の確立を目指し、DNAの分子認識と金ナノ粒子(AuNP)表面の近接場を統合した光応答システムの基本原則を確立した。また、極微量の核酸の迅速な検出を可能にする新たなフォトニックDNAセンサーの開発を進めてきた。 これまでの実験から、DNAの二本鎖形成を利用して電極に金ナノ粒子を配置し、近接場光で光増感分子を励起した結果、光電流が発生することを実証した。また、金ナノ粒子を積層させて近接場光を増強するナノ構造体を構築することで、電流が増加することが分かった。次に、電極表面でDNAのハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)を利用した電流増幅について調べた。ターゲット核酸をトリガーとしたHCRを行った後に、DNAに光増感分子を結合させると、結合数の増加に伴い光電流が増加することを示した。また、ポリヌクレオチドを合成する酵素TdTを用いて電極表面上でDNAを伸長させる反応を利用することで、光電流の増強が可能であることを示した。さらに、ATPなどの小分子やトロンビンタンパク質に結合するアプタマーを利用した光電流センサーの開発も進めた。これらの結果から、新たに開発したフォトニックDNAセンサーが核酸検出バイオセンサーとしての高い有用性を持つことを示している。今後、体液から核酸を高感度に検出するための新しいツールとしての応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNAの二本鎖形成を利用して電極表面に金ナノ粒子の積層体を構築し、その光電流応答を評価するとともに、等温ハイブリダイゼーション連鎖反応による光電流増幅についての研究を進めた。金ナノ粒子の積層体を電極表面に構築し、水溶性ポルフィリンやペリレンジイミド誘導体を光増感分子として用いて測定を行ったところ、積層体の構築によって電流の増加が観察された。この電流の増加は、ナノ粒子間のギャップがホットスポットとなり、光電子移動反応効率が向上するためと考えられる。次に、等温条件下でDNAの二本鎖形成が連鎖的に生じるハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)を電極表面で実行し、光増感剤を結合させて光電流が増加するかどうかを検証した。対象となる核酸の存在によってHCRが進行するような配列設計を行った。その後、反応に光増感剤を加えて電流測定を行った結果、伸長に伴う電流の増加が観測され、シグナル増幅が可能であることが確認された。さらに、ポリヌクレオチドを合成する酵素TdTを用いた光電流増幅について検討した。電極表面に固定して一本鎖DNAに対してdATPを基質として反応を行うと、電極表面にポリデオキシアデニンが生成した。これに光増感分子を結合させると、光電流が著しく上昇することが分かった。さらに、コカイン、ATP、トロンビンのアプタマーを電極表面に固定し、光電気化学センサーを製作した。分子の結合が光電流強度を変化させることを明らかにし、光電流を利用して対象分子を高感度に検出できることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
金ナノ粒子の積層構造の局所構造評価および効率的な積層体構築法に関する検討を進めていく。一方、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)に関しては、反応効率の向上を可能とする条件を検討し、更なるシグナル増幅の実現を目指す。また、HCRによって分岐構造を形成する反応設計を行い、樹上に金ナノ粒子を配置させることで光電流増強が可能かどうかを調べる。また、ポリヌクレオチドを合成する酵素TdTを利用した反応システムの確立と拡散検出への応用についても検討を進める。加えて、光増感剤の吸収極大波長と金ナノ粒子のプラズモン吸収との間の一致度が、光電流増幅等にどのような影響を与えるかについての関連性も明らかにする予定である。また、HCRを用いて電極表面上で金ナノ粒子が積層・集積する反応系の構築に取り組んでおり、これを微量核酸検出センサーへ応用する可能性についても評価している。また、フォトニックセンサーとしての汎用性を実証するため、DNAアプタマーを用いて様々な小分子、金属イオン、ペプチド、タンパク質等の検出システムの構築も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定していた実験試薬や消耗品等の必要量が少なかったことと、また計画していた光源購入が不要となったため。
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