研究課題/領域番号 |
21K05283
|
研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
高橋 俊太郎 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (40456257)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | グアニン四重鎖 / 遺伝子複製 / 熱力学 / 分子クラウディング環境 / ミトコンドリア / リガンド |
研究実績の概要 |
本研究では、四重鎖構造の安定性やトポロジーがヒトのミトコンドリアDNAの複製反応に及ぼす影響を定量解析することで、ミトコンドリア内環境依存的なミトコンドリアDNA変異発生のメカニズムの解明とその化学的制御を目指す。令和3年度は、ミトコンドリア内の分子クラウディング環境を計測するための核酸プローブの設計に取り組んだ。そのために、四重らせん構造の一つで、分子クラウディング環境に依存して安定性を変化させるi-motif構造をプローブのコアとして選び、その安定性と分子クラウディング環境の関係性を熱力学測定により定量的に解析した。系統的な測定から、溶液の水の活量と排除体積効果の影響をそれぞれ解析し、i-motifの構造安定性に対する溶液環境の効果を定量的に導くことができた。 また、リガンド分子で四重鎖構造を安定化し複製反応を制御する研究も並行して進めた。令和3年度は、ヒトテロメア由来のグアニン四重鎖をモデルとして、グアニン四重鎖の構造安定性と複製阻害効果の定量的解析法を確立した。本手法を用いて複製を効率的に阻害するリガンド分子を評価し、ナフタレンジイミド化合物を合理的に新規化合物を設計・合成した。この化合物は、特定のトポロジーを有するグアニン四重鎖を安定化する性質を持ち、初期に開発されたテロメア結合性化合物(TMPyP4)と比較して、100倍以上の効率でテロメアDNAの複製を阻害することができた(J. Am. Chem. Soc., 143, 16458-16469(2021))。さらに本手法を活用することで、英国 Reading大学のグループと共同で、ヒトテロメア由来のグアニン四重鎖に特異的に結合するルテニウム錯体を合成し、その複合体の立体構造をX線結晶構造解析によって決定することができた(J. Am. Chem. Soc., 144, 5956-5964 (2022))。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度はまずミトコンドリア内環境を計測するためのプローブの設計をはじめ、プローブのコアとなるi-motif構造の挙動を定量的に解析した。それにより、i-motifの構造形成を観察することで、水の活量や排除体積効果を知る指標を導くことができるようになった。現在プローブの性能を各種溶液環境内で評価を行っている。なお、新型コロナウイルスの影響などで共同研究が進まなかったことから、当初予定した細胞内でのプローブの性能評価は次年度に行う予定である。その代わりに、次年度以降に行う予定だったリガンド分子による複製制御について前倒しで研究を進め、論文発表することができた。以上の経緯から、研究全体としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、プローブDNAの各種溶液環境でのシグナル応答性について観察し、溶液の水の活量や排除体積効果を計測できるか検討する。さらにHeLa細胞などのヒト細胞内にプローブDNAを導入し、ミトコンドリア内環境の評価を行う。続いて、前年度研究で明らかにしたミトコンドリア内環境と同等の水の活量と排除体積効果を有するミトコンドリア擬似環境を、分子量の異なるポリエチレングリコール等を用いて調整する。調整したミトコンドリア擬似環境中で四重鎖を形成したミトコンドリアDNAの複製反応速度(k)を定量的に解析する。四重鎖はミトコンドリアDNAに約100種類ある全てを網羅的に解析する。また種々の四重鎖結合リガンドを添加した際の安定性と複製阻害の変化を定量的に評価し、四重鎖の安定性やトポロジーを直接変化させる化合物の探索も行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響などから一部研究計画に遅れが生じたため、予定通りの執行計画とならなかった。次年度使用額は遅れた分の研究を行うために執行する。
|