本研究では、四重鎖構造の安定性やトポロジーがヒトのミトコンドリアDNAの複製反応に及ぼす影響を定量解析することで、ミトコンドリア内環境依存的なミトコンドリアDNA変異発生のメカニズムの解明とその化学的制御を目指す。令和5年度は、DNA上に形成される四重鎖構造の形成を調節してミトコンドリアDNAの変異発生を化学的に制御する技術の開発を進めた。その中で、i-motif型の四重鎖構造に対し、配列選択的に結合するリガンド分子を見出すことに成功した。一例として、クリスタルバイオレットがヒトBcl2遺伝子のプロモーター領域由来のi-motifに選択的に結合し、その転写活性を抑制することを示した。得られた結果は、i-motifのループ領域がアプタマーのように配列に応じて様々な低分子化合物の結合サイトになり得る事を示唆しており、今後はミトコンドリア特有のi-motif配列をターゲットとする低分子化合物を開発することで、ミトコンドリアDNAの変異発生を化学的に制御できることが期待される。また、細胞中のミトコンドリア内環境が四重鎖構造に及ぼす影響を観察するために、ミトコンドリア内あるいは核内で緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するレポーター系を構築した。プロモーター下流に四重鎖配列を導入したところ、ミトコンドリア内でGFPの発現量が減少した配列が得られた。以上から、ミトコンドリア内は核内とは異なる溶液環境により四重鎖構造の形成が制御されており、その解明がミトコンドリアDNAの変異発生を理解する上で重要であることを示した。
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