研究課題/領域番号 |
21K05286
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 寛晃 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (20758205)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 化合物ライブラリー / 天然物有機化学 / 固相合成 / 構造活性相関 / 全合成 |
研究実績の概要 |
本研究は、FoF1-ATP合成酵素を標的とする天然物を基盤とした精密構造制御とこれに基づく新機能創製を目的とする。構造基盤分子として、同酵素に結合してATP合成を阻害するペプチド系天然物として知られるエフラペプチンCを選択し、効率的な固相全合成法の確立と、これを応用した構造多様化戦略に基づいて、エフラペプチン類縁体群の構築と生物機活性評価を行い、新機能分子の創出を目指す。 今期は主に、複数の2-アミノイソ酪酸残基やピペコリン酸残基を含むエフラペプチンCの疎水性配列を迅速かつ効率的に構築することを目的とした固相合成法を確立する目的で研究を展開した。まず、条件を詳細に検討することで、固相上でエフラペプチンCの有するアミノ酸配列を高効率的に構築することに成功した。また、担体からの切り出しについては、エフラペプチンC配列の各種反応条件に対する不安定性が課題となったが、ペプチド鎖と担体の連結に用いるリンカーを適切に選択することにより解決した。続いてC末端ユニットの配列内への導入によって、エフラペプチンCを高収率で得ることができた。 次に、確立したエフラペプチンCの固相全合成法を応用し、エフラペプチンCの複数のユニットを置換した人工類縁体の合成と生物活性評価へと展開した。 また、ペプチド系天然物であるヤクアミドBならびにグラミシジンAの部分構造を改変した類縁体を用いることで、生細胞内における当該天然物の相互作用タンパク質や挙動を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を遂行する中で、次に挙げる重要な進展があった。 (1)縮合ならびに切り出し時にタンパク質を構成するα-アミノ酸が連続するポリアミド構造とは異なる反応性を示す15残基から構成されるエフラペプチンCの配列を、Fmoc固相合成を基盤として最適化した条件によって高効率的に構築できることを見出した。さらに、確立した方法を応用することで、エフラペプチンCの類縁体についても同様に構築できることを見出し、合成した類縁体の生物活性評価を実現した。以上の結果から、エフラペプチンCの固相合成法の頑健性を実証するとともに、構造多様化戦略への応用に関する道筋を立てた。また、エフラペプチンCの未知であった構造機能相関を明らかにすることができた。 (2)FoF1-ATP合成酵素に作用し、抗がん活性を示す複雑ペプチド系天然物であるヤクアミドBの人工類縁体を応用し、光親和性標識法を用いた生細胞内での相互作用タンパク質解析を行った。その結果、当該天然物の新規結合タンパク質を同定した。 (3)イオンチャネル形成天然物として知られる抗菌化合物であるグラミシジンAについて、独自に見出した人工類縁体を応用した哺乳動物細胞内挙動解析を通じて、これまで直接的に観察することが困難であった当該天然物の細胞内局在や、発揮される生物活性に関する重要な示唆を得た。
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今後の研究の推進方策 |
確立した方法にしたがってエフラペプチンCの類縁体をさらに複数合成し、生物活性評価に付す。これにより、エフラペプチンCと同様の構造的特徴を有する分子の構築に広く応用可能であることを実証し、合成法の頑健性をより確かなものにすると同時に、潜在的な課題を洗い出すことで、より大規模な構造多様化へのスムーズな移行を可能とする。また、エフラペプチンCに関する新たな構造機能相関情報を蓄積し、構造多様化における分子設計について検証を行う。エフラペプチンCの類縁体を利用した細胞内機能の直接的な調査についても試みる。 さらに、エフラペプチンCの未知の細胞内機能をより詳細に明らかにする目的で、酸化的リン酸化を阻害することが知られる他の天然物の知見を応用する。例えば、FoF1-ATP合成酵素に作用して細胞増殖抑制活性を示す天然物であるヤクアミドBに関して、新たに明らかにした結合タンパク質を起点に詳細な調査を実施することで、既知の標的に対する作用以外の生細胞内機能について明らかにすることを試みる。このようにして得られた知見とエフラペプチンCに関する生物活性情報を統合し、研究課題の推進を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
主として試薬等の消耗品コストが抑制できた。次年度実施予定の有機合成実験と生物活性評価により使用予定である。
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