昨年度の報告の通り、項目(1)では、詳細なDSC測定の結果、DSCによる降温走査とそれに連続する昇温走査を差し引くことでは平衡反応の熱の寄与を打消すことは困難なことが強く示唆された。このため、本年度は、平衡反応(可逆反応)と不可逆的反応の両方を明示的に取り入れた新しい解析モデルを開発し、複数の走査速度や蛋白質濃度のデータを用いたグローバル解析法を完成した。平衡定数のみをパラメターとした従来の解析法と比べて速度定数のパラメターが増えるが、本研究でこれまでDSC測定をすすめてきたPDZ3では、それぞれROの形成と解離を伴う2つの熱転移が2つの吸熱ピークとして観測できるため、RO状態からの速度定数を直接観測するには非常に適した対象であることが示された。この成果は、8月に開催された化学熱力学に関する国際会議で発表した。また、項目(2)では、昨年度作成した低温ショック蛋白質の変性状態の構造に大きな変化を与えるアミノ酸置換体について、変異を入れることにより溶解度が低くなり、立体構造形成を担保する分子機能の確認が困難な問題を昨年度報告した。これを解決するため、本研究では、分子ビーコンを設計し分子ビーコンに導入した蛍光物質をプローブのステム部分の熱安定性を設計するとともに、温度変化と濃度変化の実験を行うことで、1 nMの低濃度で分子機能の解析を行う手法の開発に成功した。現在のところ、低温ショック蛋白質の分子表面に3本目のジスルフィド結合を導入したり、短いペプチドリンカーを介してタンデム化させた変異体では、前者では熱変性温度の向上、後者では一本鎖DNAへの結合性の向上が確認できたが、DSCで試みた測定条件では、RO状態は現在のところ確認されていない。
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