研究実績の概要 |
日本固有種の植物、フィリピン産海綿、ならびに昆虫等を有機溶媒で抽出して得られた粗抽出物を90%海水で段階的に希釈し、イトマキヒトデ受精卵約20個を加えてから倒立顕微鏡下で24時間観察し、初期発生等に対する影響を調べた。このスクリーニング試験において、ヒトデの胚発生を特定の発生段階で選択的に阻害する活性が確認された粗抽出物について、順次ヘキサン、酢酸エチル、ブタノールおよび水の各可溶性画分に溶媒分画した。さらに活性が認められた画分について、逆相系カラムクロマトグラフィーならびにシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画・精製を繰り返し行うことで活性物質を単離した。こうして得られた活性物質について、NMR、MS等の機器分析法により化学構造を決定した。その結果、日本固有種の植物であるウマノスズクサ科オニカンアオイ(Asarum yakusimense Masam.)の根の酢酸エチル可溶性画分には、ヒトデ胚の胚発生を多細胞期で停止させる活性が認められた。この酢酸エチル可溶性画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって繰り返し分画精製を行って活性成分を得た。NMRおよびMS等のスペクトルに基づいて構造を推定したのち、最終的に単結晶X線解析によって1,2-オキサジン-6-オン環を有するフェナントレン化合物であると決定した。絶対配置については、ECD計算に基づいて、アサロイドオキサジンAのものとは逆であると決定した。結合しているメトキシ基の数の違いで絶対配置が異なる類縁体が同じ植物内に共存していることは興味深い。また、フィリピン産の海綿抽出物からは、活性物質として含臭素化合物が得られた。本新規物質は、枝分かれメチル基を有する炭素数29の長鎖脂肪酸を側鎖に持つ新規なプサマプリシン関連物質であることを明らかにした。
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