研究課題/領域番号 |
21K05292
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
吉村 文彦 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (70374189)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 四級不斉炭素 / アンドラスチン / ハリコニン / ニトリル / 全合成 / 共役付加 / 金属ヒドリド水素原子移動 |
研究実績の概要 |
天然物に代表される薬物候補化合物に四級不斉炭素を付加すると、配座規制により好ましい生物学的影響が見られることが多いため、四級不斉炭素を有する化合物が各方面で注目を集めている。本研究は、シアノ基の特性を活用した反応開発を行い、四級不斉炭素が密集した天然物の化学合成を革新する方法論の開発を目的とする。合成標的として抗がん剤のリード化合物として期待されるアンドラスチン類とハリコニン類を設定し、環を形成しつつ四級不斉炭素を含む連続不斉炭素を一度に構築可能な反応を開発して、これら天然物の全合成をめざす。本年度得られた研究成果の概要を以下に示す。 1) アンドラスチン類の全合成研究:先に開発した分子内シアノエン反応を鍵反応に用いて、アンドラスチン類のBCD環部の構築法を確立した。合成上の最重要課題である三連続四級不斉炭素の立体化学を完全に制御することができた。また、シアノアニオンの分子内共役付加反応を用いる四級不斉炭素構築型の環化反応の開発研究の過程で、金属ヒドリド水素原子移動(MHAT)を用いる新しい形式の環化反応を見出した。 2) ハリコニン類の全合成研究:論文発表に向けて、前年度に合成に成功したテルペン-ポリアミンハイブリッド型天然物ハリコニンBの合成経路の最適化を行った。特に、収率の低かったCurtius転位を用いるカルボン酸から一炭素減炭を伴う第一級アミンへの変換法とニトロベンゼンスルホンアミドを用いる(Ns-strategy)非対称分岐型ジアミン部位の構築法を最適化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
標的化合物の全合成に関しては、概ね順調に進行している。 1) アンドラスチン類の全合成研究:合成上の最重要課題である三連続四級不斉炭素を有するアンドラスチン類のBCD環部の構築法を確立した。また、研究過程で、末端にアルケンを有するアルカンニトリルに対して、金属ヒドリド水素原子移動(MHAT)を用いる新しいタイプの環化反応を見出した。 2) ハリコニン類の全合成研究:3種類のハリコニン類のうち、A環上に酸素官能基をもたないハリコニンBのラセミ体の全合成経路を最適化した。この全合成は、市販のイソ酪酸エチルから最長直線18工程、通算収率3.0%と効率性の高い経路となった。また、ハリコニンBの不斉合成研究、並びにA環上に酸素官能基をもつハリコニンAとCの合成研究にも着手した。
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今後の研究の推進方策 |
アンドラスチンCについては、これまでの先のモデル合成の知見を活かして、早急に不斉全合成を達成したい。金属ヒドリド水素原子移動(MHAT)を用いるアルケンを有するアルカンニトリルの環化反応は、立体的に混み入った位置での環形成が可能であるため、今後反応の最適化・適用範囲の調査を行う予定である。 ハリコニン類の合成研究では、ハリコニンBのラセミ体の全合成について論文発表する。また、ハリコニンBの不斉全合成に取り組む。ラセミ体の合成経路を基盤として、光学活性基質を用いて環形成を行う計画である。また、ハリコニン類の構造-活性相関研究に向けて、酸化度の高い類縁体ハリコニンAとCの全合成も並行して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:新型コロナウイルス感染症への対応に伴い、参加予定学会の一部がオンライン開催になったため、旅費が節約できた。また、試薬と溶媒の一括購入を行い、経費が削減できた。これらにより次年度使用額が生じた。 使用計画:生じた残額については、次年度の試薬と溶媒の購入、分光機器の使用料に充当する。また、次年度予定している本研究成果の学術論文発表に関わる経費や学会発表における旅費にも使用する。
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