天然物に代表される薬物候補化合物に四級不斉炭素を付加すると、配座規制により好ましい生物学的影響が見られることが多いため、四級不斉炭素を有する化合物が近年注目を集めている。本研究は、シアノ基の特性を活用した反応開発を行い、四級不斉炭素が密集した天然物の化学合成を革新する方法論の開発を目的とする。合成標的として抗がん剤のリード化合物として期待されるアンドラスチン類とハリコニン類を設定し、環を形成しつつ四級不斉炭素を含む連続不斉炭素を一度に構築可能な反応を開発して、これら天然物の全合成をめざす。本年度の研究成果の概要を以下に示す。 1) アンドラスチン類の全合成研究:シアノアニオンの分子内共役付加反応を基軸とする経路でABC環部の合成に成功したが、多工程を必要とし総収率も低いことが課題として残った。短工程かつ効率的なABC環部合成法の実現に向け、新たにシアノアニオンの分子内SN2’反応を基軸とする合成経路を検討した。必要となる反応についてモデル基質での検討を行い、同一基質から出発して立体化学の異なる異性体を作り分けられる立体相補的な6員環形成反応の基本条件を見出した。 2) ハリコニン類の全合成研究:テルペン-ポリアミンハイブリッド型天然物ハリコニンBの合成経路の最適化と論文投稿に必要なデータ収集を行った。Curtius転位を用いるカルボン酸から一炭素減炭を伴う第一級アミンへの変換法に関しては、NaOTMSを求核剤に用いる条件で収率が大幅に改善できた。また、ワンポットHorner-Wadsworth-Emmons反応/分子内共役付加によりテルペンコア部合成も短工程できた。以上の成果をまとめ、近日中に国際化学雑誌に投稿する予定である。
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