研究課題/領域番号 |
21K05295
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
大野 修 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (20436992)
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研究分担者 |
松野 研司 工学院大学, 先進工学部, 教授 (50433214)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | KNP-1 / キヌレニン / IDO / STAT1 / RORγt / SR0987 / cintirorgon |
研究実績の概要 |
本課題では、シアノバクテリアOkeania sp.より単離した新規キヌレニン産生阻害剤KNP-1の作用機序の解明を試みた。これまでに用いていたA431細胞以外に、HeLa細胞においてもKNP-1がキヌレニン産生阻害活性を示すことを見出した。また、KNP-1によるキヌレニン産生阻害活性についてウェスタンブロッティング法による解析を試み、トリプトファンをキヌレニンに変換する酵素IDOの発現をKNP-1が阻害する活性を、A431とHeLaの両細胞で見出した。さらに、IDOの発現に関わる転写因子であるSTAT1の発現も、A431とHeLaの両細胞でKNP-1が阻害した。また、KNP-1がSTAT1のリン酸化による活性化は阻害しないことも明らかにした。これらの結果より、KNP-1はSTAT-1のリン酸化よりも下流の工程でキヌレニン産生に至るシグナル伝達を阻害することを見出した。また、KNP-1が複数のがん細胞において同様の機構でキヌレニン産生を阻害することを明らかにした。 一方、RORγtのアゴニストとして報告されているSR0987に、KNP-1と同様のキヌレニン産生阻害活性を見出した。SR0987の作用機序を解析した結果、KNP-1と同様にIDOとSTAT-1の発現を阻害することを見出したため、KNP-1と同様の作用機序を有する可能性が示唆された。一方で他のケモタイプのRORγtのアゴニストであるcintirorgonについてもキヌレニン産生阻害活性を評価した。その結果、cintirorgonもキヌレニン産生阻害活性を示し、その作用メカニズムがSR0987やKNP-1と同様であることを明らかにした。以上の結果より、KNP-1の作用機序を解明するための重要な情報が得られたとともに、RORγtとキヌレニン産生のシグナル伝達経路の新規クロストークの存在を示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規キヌレニン産生阻害剤KNP-1の作用機序の解明を試み、一定の成果が得られた。 KNP-1のキヌレニン産生阻害活性についてA431細胞だけでなく、HeLa細胞においても同様の機構で活性を示すことを見出すことができた。また、ウェスタンブロッティング法を活用することで、キヌレニン産生に関わる酵素やシグナル伝達因子に与える影響について詳細な解析を行うことができた。それらの解析によって、KNP-1の作用点について、STAT1のリン酸化の下流であり、タンパク質発現よりも上流であることを複数の細胞で明らかにすることができた。 また、KNP-1と同様のキヌレニン産生阻害活性を、RORγtのアゴニストであるSR0987に見出すことができた。SR0987についてもウェスタンブロッティング法による解析を活用することで、KNP-1と同様の作用機序でキヌレニン産生を阻害することを明らかにすることができた。また、他のケモタイプのRORγtのアゴニストであるcintirorgonについてもキヌレニン産生阻害活性を見出したことから、RORγtとキヌレニン産生のシグナル伝達経路に新規クロストークの存在を示唆する結果を得ることができた。これらの結果は、キヌレニン産生に関わる細胞内シグナル伝達に関する新たな知見となり得る可能性がある。これらの結果は、KNP-1の作用機序を解明する上でも重要な情報となり得る。 以上の結果を踏まえ、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、KNP-1の作用機序を解明と、KNP-1を活用した新たながん免疫寛容阻害剤の開発に向けた研究に着手する。 KNP-1のキヌレニン産生阻害活性のメカニズムについては、ある程度作用点を絞ることができたので、今後はSTAT1のリン酸化の下流について調べていく予定である。まずは、STAT1の核内移行を細胞の核画分と細胞質画分を分けてウェスタンブロッティング法による解析に供することで明らかにする。また、その下流のSTAT1のDNAとの結合や転写活性に与えるKNP-1の影響についても検討する。それらの解析をA431とHeLaの両細胞で行うことで、複数のがん細胞において同様の機構で活性を示すかどうかを明らかにする。また、合成的手法により、KNP-1のプローブ化を試み、細胞内局在部位や細胞内の標的タンパク質を明らかにする実験にも着手する。 また、RORγtのアゴニストがKNP-1と同様のキヌレニン産生活性を示したことについても、詳細な解析を試みる。実際にRORγtの活性化がSTAT1の発現抑制に関わるかどうかを、RORγtのアンタゴニストを用いた解析により明らかにする。また、siRNAにより、RORγtをノックダウンすることで、RORγtのアゴニストによるキヌレニン産生阻害活性がキャンセルされるかどうかを調べることで、それらの関係を明らかにする。 さらにメタボローム解析システムを活用し、KNP-1を生産するシアノバクテリアより、新規KNP-1類縁体の獲得を目指す。本手法を活用することで,KNP-1に次ぐ,より強力なキヌレニン産生阻害剤の獲得に取り組む。 以上の実験を通じ、KNP-1の作用機序を解明し、新たながん免疫寛容阻害剤の開発に繋がる成果を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ、割り当て額を消費し研究成果自体は十分なものであったが、わずかに余剰分が生じた。継続して実施する課題であるので、余剰分は次年度使用分として活用する予定である。
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