研究課題
スルファチド (3-O-硫酸化ガラクトシルセラミド) は、生体内に普遍的に存在する糖脂質であり、インフルエンザ感染時にウイルスの産生を促進させている。この働きはスルファチドとウイルスタンパク質であるヘマグルチニン (HA) の相互作用に起因する。本研究ではこの相互作用に着目し、アニオン原子団である硫酸基を鍵とした種々のスルファチド類縁体を化学合成し、これまで不明確であったスルファチドとHA間の構造活性相関を調査し、その作用メカニズムについて分子レベルでの理解を目指す。同時に、スルファチドとHAの結合を阻害する類縁体について、既存薬とは異なる作用機序をもった新規インフルエンザウイルス増殖阻害剤として応用する基盤を構築する。本年度はアグリコンをトリメチルシリルエチル基とした天然型および3位リン酸型のスルファチド類縁体の合成に着手した。D-ガラクトースを出発原料として、定法によりアセトブロモ糖へと誘導した後、トリメチルシリルエタノールと縮合した。保護基を架け替えて4,6-O-ベンジリデンアセタール体へと変換し、天然型およびリン酸型誘導体の共通中間体とした。共通中間多体に対して三酸化硫黄ピリジン錯体を反応させて3位ヒドロキシ基を硫酸化し、脱保護を経て目的の天然型スルファチド類縁体を合成した。同様に共通中間体とホスホロアミダイトを縮合し、酸化することで3位の保護リン酸化誘導体の合成を行った。現在は他の類縁体の鍵中間体となる3位ベンジルエーテル保護のガラクトース誘導体の合成に着手している。
2: おおむね順調に進展している
本年度より所属および研究実施場所の変更があり、研究環境にも大きな変化ががあった。予定よりも実験環境の整備に時間と予算が割かれたものの、合成計画自体は順調に進行している。計画当初よりも大型共用設備や実験機器類等の利用を制限せざるを得ず、年度内に予定していた化合物の合成までは完了できなかった。このとから本年度の達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
スルファチド3位デオキシ型誘導体とカルボン酸型誘導体はガラクトース3位に対するラジカル反応を足掛かりとして構築するので、まずはこの反応に供するためのガラクトース誘導体の合成を行う。同様にスルホン酸型およびホスホン酸型類縁体はガラクトースの3位ケト体を経由して合成する計画であるため、これもガラクトースより誘導して鍵中間体とする。
(理由)研究実施場所が変更になり、実験環境の整備に時間を要し消耗品の購入額に変化が生じた。消耗品は研究の進度によって購入額が変動するため、次年度に繰り返すことが最良と判断した。学会参加の交通宿泊費として計上していた経費はオンライン開催の学会がほとんどだったため使用しなかったが、副次的な研究成果を学会発表し、その他費用から参加費として支出した。(使用計画)次年度使用額は主に消耗品費として使用する計画である。合成計画が当初予定していたよりも進展が遅いため、試薬および中圧用プレパックカラムの購入に充てる予定である。
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Allergy
巻: 77 ページ: 1054-1059
10.1111/all.15184