研究実績の概要 |
核酸の非標準構造の一つであるグアニン4重鎖構造(G4)は、ゲノムDNAの特定の領域に存在し、その形成と安定性は多くの生物学的プロセスに影響を与えている。また、RNAにおけるG4は、注目を集めている細胞内液-液相分離に深く関わることが明らかになってきた。それゆえG4構造を細胞内で特異的にイメージングできる新しいツールは、生命科学研究に重要な進歩をもたらす。しかし、生細胞内G4をリアルタイムに観察できるツールの開発は遅れており、特に、生体組織透過性の高い近赤外領域の蛍光を示すG4選択的な蛍光イメージングプローブの開発が求められている。 本研究では、2重鎖DNAとG4 DNAに異なる色の蛍光で応答する、独自の蛍光分子プローブ(QCy(MeBT)3)による生細胞内G4核酸イメージング能力を明らかにし、また、プローブの化学構造の改変による性能向上を試みた。具体的には、QCy(MeBT)3の細胞内G4イメージングプローブとしての性能を、細胞毒性、既存のG4プローブとの局在比較などから評価した。結果、QCy(MeBT)3のHeLa細胞に対する細胞毒性は十分低く、蛍光染色に必要な濃度(1 uM)では細胞生存率にほぼ影響を与えないことを明らかにした。また、既存のG4プローブ(ThT)と共染色を行い、蛍光シグナルの分布を調べた結果、ThT蛍光とQCy(MeBT) 3の700 nm蛍光の分布がほぼ同じであったことから、生細胞内G4プローブとして有用であることを明らかにした。また、細胞導入効率の向上のため疎水性の高いベンジル基を導入したQCy(BnBT)3を合成し、蛍光特性を調べた結果、G4核酸との結合により800 nmの蛍光を1,000倍以上増加させることを明らかにした。 以上から、QCy(MeBT)3の生細胞内G4イメージングにおける有用性を明らかにし、さらにその機能の改良に成功した。
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