研究課題/領域番号 |
21K05315
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
幡野 明彦 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10333163)
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研究分担者 |
福井 浩二 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (80399807)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 血管新生因子 / ピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ / パイ平面拡張イミダゾール / 非天然ヌクレオシド / プローブ分子 |
研究実績の概要 |
2021年の日本の死因の第一位は癌(悪性腫瘍)であり、大腸癌、胃癌という消化器系の癌が多い。近年、消化器系癌は内視鏡での切除が可能であり、早期発見ができれば生存確率が格段に向上する。しかし、より簡便で短時間に癌組織を客観的に診断する方法はまだ無い。癌細胞は血管を新たに作ることで栄養を取り込み、かつ癌関連因子を放出して転位が起こる。ピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ (PyNP) は、癌の増殖や転移に関与する血管新生因子であることが報告されている。血管新生は癌細胞が増える初期過程でも観察されるため、PyNPを高感度で検出できれば、癌を検出する方法になると期待される。 本研究では,血管新生因子であるPyNPによって蛍光がオンオフするような非天然ヌクレオシド型のプローブ分子を開発することで,血管新生を蛍光と言う光で検出して癌の早期発見を目指した。 蛍光を示すと期待される,パイ平面が一次元、二次元に拡張されたイミダゾール化合物を3種類合成した。1H-imidazo[4,5-b]phenazineは,視認性の良い緑色で,最大蛍光波長が537 nmであった。 これらの合成されたパイ平面拡張イミダゾールを用いて,PyNPによる非天然ヌクレオシド合成を行った。合成した3H-naphtho[1,2-d]imidazoleはベンゼン環を2つ有するイミダゾールであるが,デオキシ体で97%,リボ体で68%の非天然ヌクレオシド合成に成功した。また,芳香環が3つ結合したイミダゾールである1H-imidazo[4,5-b]phenazineはmデオキシ体で31%,リボ体は9.4%の反応転換率であった。このように大きな官能基を有するイミダゾールでも,反応が進行することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
パイ平面拡張型蛍光性イミダゾールの有機合成が思うように進まなかった。理由としてはコロナ禍での行動制限や,多段階合成ルートの低収率が原因であった。ナフチルジアミンの環化をホルムアルデヒド中で行うが,十分なる収率がとれず(12%),かなりの検討を要した。 PyNPの酵素反応を検討したところ,プリン系ヌクレオシドの官能基を変化させることで,リボース部位の選択性を制御できることを明らかにした。たとえば,アデニンを修飾したモノアルキルアミノプリンでは,リボ体(ウリジン)がデオキシ体(チミジン)より反応速度が速いことが分かった。しかし,ジアルキルアミノプリンを用いたときは,リボ体(ウリジン)よりデオキシ体(チミジン)の方が反応速度が速いことが分かった。現在,塩基部位によるリボース選択性制御についても検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,PyNPによるパイ平面拡張型蛍光性イミダゾールをヌクレオシドの塩基部位に導入することに成功した。今後は,以下の検討を行って行く。 1)パイ平面拡張型蛍光性イミダゾールヌクレオシドの単離精製:化学合成,もしくはPyNPを利用して非天然ヌクレオシドを合成し,分収HPLCにより単離精製を行う。その後,プロトン,カーボンNMR,質量分析装置によって構造を確認する。 2)パイ平面拡張型蛍光性イミダゾールヌクレオシドを用いた蛍光特性の変化:蛍光性イミダゾールがヌクレオシドに結合したときと脱離したときで蛍光波長,蛍光強度が変化するかを蛍光分光光度計にて調査する。 3)ヌクレオシド内への消光剤の導入:PyNPの5位水酸基の効果は低い。その性質を利用して小型の消光剤を非天然ヌクレオシドに化学結合させる。同一分子内に蛍光基と消光団が存在するため,エネルギー共鳴移動によって蛍光強度は低下する。PyNPの働きにより,加リン酸分解反応が起きて塩基部位が遊離すると,エネルギー共鳴移動が起こらず,蛍光が回復することで,PyNPの検出が可能になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定金額を使い終わったが,6,079円の試薬の未購入分が発生してしまった。次年度に酵素やHPLCの消耗品購入に充足する予定である。
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