研究課題/領域番号 |
21K05318
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
下畑 宣行 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 准教授 (30419709)
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研究分担者 |
北條 宏徳 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (80788422)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 変形性関節症 / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
変形性関節症は、関節部に痛みを伴う疾病として代表的なものの一つであり、関節軟骨がすり減ることによって生じる関節部の慢性的な炎症が引き金となって起きると考えられている。高齢者に好発する疾患としても知られており、今後超高齢化社会を迎える日本においてはその治療法の研究開発は喫緊の課題となっている。我々は、ミトコンドリア内膜タンパク質Prohibitin (PHB) ・PHB2と軟骨分化の関連について着目し、この知見をもとにした新たな変形性関節症治療薬の同定を計画している。本年度において、下記3件に関して解析結果を得た。 1.新規変形性関節症治療薬を網羅的に同定するスクリーニング系を構築するためにPHB・PHB2とPHBリガンドとの相互作用解析を進めており、予備的ではあるがPHB・PHB2とリガンドとの相互作用に特異性があることが確認された。 2.軟骨分化に関しての知見を得るために、間葉系幹細胞と前駆軟骨細胞などにおいてタンパク質合成初期の代謝に関して解析を行った。その結果、新生ポリペプチド鎖のプロテオームプロファイルにおいて、分化の進行によって顕著な違いが生じることがわかった。これらの結果は、新生ポリペプチド鎖の代謝が分化の進行度によって変化することを示唆している。現在、上記研究結果に関して論文を作成している。 3.PHBリガンドがPHB・PHB2を介して、軟骨分化にどのような影響を果たしているのか詳細に解析するために、ミトコンドリア活性や糖代謝経路への効果を解析した。その結果、ミトコンドリア膜電位に関しては大きな変化は見られなかったが、糖代謝経路に関して解糖系が亢進していることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において、PHBリガンドとPHB・PHB2との相互作用条件の検討を行い、次年度以降の実験の基礎となる知見を得ることができた。PHB及びPHB2と各リガンドとの相互作用には特異性があり、この違いによって局在化機構やシグナル伝達経路への反応に違いが生じることが示唆された。また、PHBリガンドとPHB・PHB2との軟骨分化過程における機能的相関についても解析を実施したところ、ミトコンドリア活性への顕著な影響は確認されなかったが、糖代謝経路の活性変動が生じることが確認された。これらの結果はPHBリガンドが、PHB (もしくはPHB2) を介して解糖系以後の過程に影響を与えていることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた知見をもって新規変形性関節症治療薬の探索を効率よく進めることが可能となった。PHBリガンドとPHB、PHB2との相互作用には特異性があり、この特異性は創薬標的を検討する上で非常に重要な知見となると考えられる。次年度以降は、具体的な変形性関節症治療薬候補のスクリーニング作業の確立を行い (溶媒条件、蛍光・吸光度条件、スクリーニングスケールなど)、作業を進めて候補薬の同定を行っていく計画である。また、引き続き、軟骨分化とPHB・PHB2との機能的関連性に関して詳細に解析していくことを考えている。PHB・PHB2のミトコンドリア外への局在化メカニズムやシグナル伝達経路への関与に関して、分化状態の変動に着目した解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画においては、本年度に高額試薬 (主に蛍光抗体) を購入する予定であったが、コロナ禍による研究の制限などがあり、高額な試薬を長期に保存することへの懸念があったため、次年度以降にまとめて購入することとした。その代わりに、次年度以降に行う予定のミトコンドリア機能の解析を本年度に実施しており、計画に大きな遅滞はないと考えている。
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