研究実績の概要 |
植物はリン欠乏時に、生体膜を構成するリン脂質の大半を糖脂質に転換する。これは、リン欠乏ストレスに順応して生育するために植物が有する膜脂質転換機構であることが知られている。しかし、これまでの申請者らの研究により、このリン欠乏時の膜脂質転換に寄与するリン脂質分解経路は、実は窒素欠乏時の生育にも必須であること、すなわち、土壌中の栄養量が変動する生育環境に順応するための重要な機構であることが明らかになった。そこで本研究では、特にリン欠乏生育時のリン脂質分解に寄与するホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ(PAH)の活性発現制御、さらに、栄養欠乏生育条件下におけるこのリン脂質分解経路の重要性が、植物種を超えて広く保存されているのかどうかに着目して研究を行っている。これまでに、PAHと同様、リン欠乏時の膜脂質転換に寄与しているNPC5について、シロイヌナズナPAH1, PAH2, NPC5のトリプルノックアウト変異体をゲノム編集により作出した。しかし、リン酸欠乏時の生育において、PAH1, PAH2ダブルノックアウト変異体との差がみられなかったことから、シロイヌナズナにおけるNPC5のリン欠乏時の膜脂質転換への寄与は小さいことが明らかになった。また、陸上植物の初期に分岐したゼニゴケについてもPAHの解析を進めたところ、ゼニゴケにおいてPAHはリン欠乏時の膜脂質転換におけるリン脂質分解にあまり寄与していないことがわかった。このことは、ゼニゴケにおいては、シロイヌナズナでは寄与が小さいとされたNPC5がリン脂質分解を担っている可能性を示唆した。そこで、ゼニゴケのNPCホモログである3遺伝子について、ゲノム編集法により変異体を作出、表現型および膜脂質組成の解析を行ったところ、ゼニゴケの3つのNPCはPAHと同様、リン欠乏時のリン脂質分解には寄与していない可能性が示唆された。
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