研究課題
本研究では、Gallionellaceae科微好気性鉄酸化細菌(以下、微好気性鉄酸化細菌)の分離菌株を用いた培養実験による鉄酸化活性の評価と、室内での土壌培養実験による微好気性鉄酸化細菌の動態の解析から、水田土壌での微好気性鉄酸化細菌の鉄酸化ポテンシャルを推定することを目指す。本年度は、昨年度検討した室内での土壌培養実験を引き続き行い、湛水水田土壌を落水したときの微好気性鉄酸化細菌群集の動態を解析した。また、微好気性鉄酸化細菌分離株を用いて、鉄酸化活性を測定する予備実験を行った。水田土壌に粉末状にした稲わらを混合し、ガラスシリンジを用いて30℃、暗所で4週間湛水培養した。その後、培養温度を12℃、30℃、37℃に変更して下方より排水することによって落水状態とし、土壌中の活性2価鉄量を経時的に測定した。その結果、湛水培養により活性2価鉄量は乾土1gあたり2.5 mgまで増加した。一方、落水後は、2週間経過してもほとんど減少しないか、わずかに減少したのみであった。落水後の微好気性鉄酸化細菌群集の動態を16S rDNAを対象とした定量PCRにより解析した結果、16S rDNAコピー数は落水後5日(30、37℃)、または17日(12℃)の間に10-90倍増加し、低い温度ほど増加率が大きかった。以上より、微好気性鉄酸化細菌群集は、落水後、活性2価鉄量の変化が少ない短期間で活発に増殖し、その応答は温度によって異なることが明らかとなった。また、水田より分離した微好気性鉄酸化細菌を対象に、液体培地中での鉄酸化活性を測定することを試みた。結果、十分な細胞数を測定に用いることで非生物的な鉄酸化反応を上回る鉄酸化活性を測定することができることが明らかになった。
3: やや遅れている
当初の計画では、微好気性鉄酸化細菌分離株の鉄酸化活性を測定し、土壌培養実験の結果と併せて土壌中における微好気性鉄酸化細菌の鉄酸化ポテンシャルを推定することを計画していたが、分離菌株の鉄酸化活性の測定が予備実験までとなり、予定していた計画を全て完了することができなかった。
現在、分離菌株の鉄酸化活性の測定途中であり、活性測定を引き続き行う。その結果と土壌培養実験の結果を併せて、水田土壌落水時の微好気性鉄酸化細菌の鉄酸化ポテンシャルを推定する。また、当初の計画の一つである、落水時の鉄酸化反応により形成した非晶質鉄酸化物量とそこに含まれる窒素やリン量、また土壌中の微好気性鉄酸化細菌群集の動態との関係を探り、水田土壌における鉄の酸化還元やそれに伴う物質動態における微好気性鉄酸化細菌の潜在的な役割を明らかにする。
当初計画していた分離菌株の鉄酸化活性の測定が予備実験までとなり、予定していた計画を全て完了することができなかったため、次年度へ繰り越す必要が生じた。繰越額は、翌年度分の助成金と合わせて、引き続き分離菌株の鉄酸化活性の測定のために使用するほか、翌年度の研究計画である落水時の鉄酸化反応により形成した非晶質鉄酸化物量とそこに含まれる窒素やリン量、また土壌中の微好気性鉄酸化細菌群集の動態との関係を探るための実験に使用する。
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