研究課題
本研究では、Gallionellaceae科微好気性鉄酸化菌(以下、鉄酸化菌)の分離菌株を用いた培養実験と室内での土壌培養実験を行い、水田土壌での鉄酸化菌の鉄酸化ポテンシャルを推定することを目指した。本年度は、水田由来鉄酸化菌Ferrigenium sp. NRt1株のゲノム解析を行うとともに細胞あたりの鉄酸化活性を測定し、昨年度までの土壌培養実験の結果と合わせて土壌中での鉄ポテンシャルを評価した。また、新たに土壌中の2価鉄を、水溶性、交換性、活性2価鉄に分けて測定し、鉄酸化菌がどの画分の鉄の酸化に関わるのか推定した。NRt1株の鉄酸化活性は、NRt1株接種培養液および非接種培養液中の2価鉄減少量の差と培養液中の細胞数から推定した。また、土壌中の水溶性、交換性、活性2価鉄はそれぞれ水、1M KCl、pH 3.0酢酸バッファーにより抽出し、その量を評価した。NRt1株の鉄酸化活性は、1細胞あたり約10^-15 mol/hであり、NRt1株の至適生育温度と対応して30℃で最も高かった。この鉄酸化活性の値と細胞の倍加時間、昨年度までの土壌培養実験での鉄酸化菌数の増加量を考慮して土壌中での鉄酸化菌の鉄酸化ポテンシャルを推定すると、土壌1gあたり最大0.03 mgの鉄を酸化すると見積もられた。今年度の土壌培養実験において水溶性、交換性、活性2価鉄を測定した結果、酢酸抽出(活性2価鉄)画分が最も割合が多かったが、交換性画分や水溶性画分も検出された。NRt1株のゲノム解析では、NRt1株は水溶性2価鉄(フリーの2価鉄イオン)を酸化する酵素を有することが推定された。以上の結果を統合すると、Gallionellaceae科微好気性鉄酸化細菌は、水田土壌が落水され、土壌が酸化的な環境に変化すると水溶性2価鉄を酸化して活発に増殖することが示唆された。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
Soil Science and Plant Nutrition
巻: 69 ページ: 283~293
10.1080/00380768.2023.2259426