研究課題/領域番号 |
21K05333
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
栂根 美佳 基礎生物学研究所, 細胞動態研究部門, 特別協力研究員 (90625592)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 栄養応答 |
研究実績の概要 |
植物は土壌中の窒素栄養の量や分布に応じて根系成長(根の数と伸長)を変化させる。これまでに、シロイヌナズナやマメ科植物など被子植物を用いた研究から、硝酸による根系成長は根で起こる局所的な反応だけでなく、全身的な硝酸シグナル伝達経路によって制御されていることが明らかとなっている。本研究では、全身的な硝酸シグナル伝達経路に関わる分子機構の解明を目的とする。また、植物が進化の過程でどのように全身的シグナル伝達経路を獲得したのかを理解する事を目指す。 被子植物の系成長は硝酸濃度依存的に促進され、高濃度の硝酸によって抑制される。これまでの研究から、全身的な硝酸シグナル伝達経路には地上部で機能するCLV1受容体と、根で発現して地上部へと輸送されるCLEペプチドが関わっていることが明らかにされている。CLEペプチドの発現は硝酸濃度依存的に誘導されるが、その濃度は植物種によって異なっている。コケ植物のゼニゴケ(Marchantia polymorpha)は仮根と呼ばれる器官を発達させるが、これは単細胞の器官であり、被子植物の根とは構造が異なる。平滑仮根と有紋仮根は、それぞれ地面への接着と毛細管現象による水の移動に重要である。仮根の成長が被子植物の根のように硝酸応答性を示すのかを調べた。その結果、ゼニゴケの仮根成長も硝酸濃度依存的であり、高濃度の硝酸によって阻害を受けることが示された。具体的には、標準株として利用されているTak-1(雄株)と Tak-2(雌株)の無性芽およびメリステムを硝酸濃度(0.3、3、15、30 mM)の異なる培地において栽培し、仮根長を測定した。Tak-2と比較して、Tak-1はより顕著な仮根伸長応答性を示した。また、15mM硝酸添加培地において仮根長が最も長く、30mMでは伸長が抑制されていた。このことは、ゼニゴケの仮根成長に与える硝酸の影響が、被子植物の根系成長に与える硝酸の影響と類似していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
COVID-19等の影響でテレワークが増加したため。
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今後の研究の推進方策 |
硝酸は植物の生育に必須な栄養素の窒素源である。被子植物が硝酸を効率的に吸収するメカニズムとして、CLV1-CLEを介した全身制御的な硝酸シグナル伝達機構の解析が世界的に進められている。最近、コケ植物におけるCLV1-CLEシステムが報告され、注目をされている。 そこで本研究では、ゼニゴケのCLV1、CLEの変異体系統を作出している研究グループと共同研究を行うことによって、効率的に研究を推進していく予定である。ゼニゴケにおけるCLV1-CLEを介した全身的な硝酸シグナル伝達機構を解明することにより、植物におけるCLV1-CLE伝達機構の普遍性と進化を明らかにすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19等の影響でテレワークが増加したため。また所属研究室を移動したため、研究計画の一部を変更し、研究の新規性と精度を上げるための実験を現在実施している。具体的には共同研究を行うことによって、ゼニゴケを用いた植物の硝酸応答シグナル伝達経路の解明を効率的に推進していく予定である。現在申請者は、ゼニゴケを用いた研究を問題なく行える環境にある。
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