生もと系清酒醸造過程における複合微生物系の動態の解明を目的とし、本課題では生もと系酒母中に生育する微生物叢とその推移の調査、およびその微生物叢形成を制御する因子の探索を行った。 上川大雪酒造株式会社の酒蔵(碧雲蔵)で製造された製造期間の異なる4つの生もと系酒母(ロットA~D)を経日的に採取し、16S rRNA解析にて細菌群集構造を調査した。加えて、単離菌株の16S rRNA塩基配列を解読して細菌種を同定した。その結果、製造初期では全てのロットで米麹由来と推定されるStaphylococcus属細菌が優占していた。単離されたStaphylococcus属細菌株には高い硝酸還元能が認められ、本細菌種の優占時期に当たる酒母から亜硝酸が検出された。したがって、Staphylococcus属細菌が生産する亜硝酸が製造初期における雑菌繁殖の防除に寄与する可能性が考えられた。 一方、製造中期には多様なLeuconostoc属およびLactobacillus属乳酸菌が優占し、その群集構造はロット毎で大きく異なっていた。仕込み時に投入された各ロットの米麹から取得したDNAを16S rRNA解析に供した結果、米麹の乳酸菌由来リードの内容と酒母製造中期に優占した乳酸菌種が一致していた。したがって、生もと系酒母における乳酸菌叢の形成には米麹の影響が大きく反映することが明らかとなった。 清酒酵母が優占しエタノールを高濃度含む製造後期では、中期でLeuconostoc mesenteroidesのみが優占した単純な乳酸菌叢を示したロットBにおいてのみ、品質悪化の原因となり得るエタノール耐性乳酸菌が検出された。したがって、製造中期に多様な乳酸菌が優占すること、あるいは他のロットで特異的に優占した乳酸菌がエタノール耐性乳酸菌の生育を抑制した可能性が示唆された。
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