長鎖脂肪酸のカルボキシ基にアミンを付加したアミド化合物は、工業的に可塑剤として利用されている。近年は、生物活性を示す脂質メディエーターとしての潜在的な有用性に注目が寄せられている。アミド化合物の合成は、一般的に化学合成に依存している。しかしながら、環境に対する負荷が大きいため環境に調和した持続可能な製法が望まれている。そこで本研究では、温和な条件下で脂肪酸アミドを合成可能な微生物由来酵素の取得を目指した。具体的には、脂肪酸アミドを合成可能な微生物の探索、酵素の同定、機能解析を行った。 まず、脂肪酸アミドのモデル化合物としてオレアミドとエルカミドを生産可能な微生物を探索した。研究室保有の1429株を対象に、アミド合成活性を指標としたスクリーニングを行った。その結果、78株においてオレアミド合成活性を認め、そのうち46株はエルカミド合成活性も有していた。反応機構を検討した結果、本合成活性は加水分解の逆反応であることを確認した。 次に、最も高い活性を示したMycobacterium sp. AKU 2014からの酵素精製を行った。4段階のクロマトグラフィーにより、目的酵素を部分的に精製した。N-末端アミノ酸配列解析の結果、データベース上のセリンペプチダーゼと類似性を有していることが判明した。 遺伝子の全長を取得後、大腸菌において異種発現を試みた。当該遺伝子は大腸菌において発現量が低かったため、様々な発現プラスミドを構築し、精製のためのタグも検討した。その結果、N-末端にヒスチジンタグを付加するように設計したプラスミドを用いた場合において可溶性画分に発現し、かつニッケルカラムを用いた簡便な精製も可能であった。続いて、取得した精製酵素の特性解析を行った。その結果、本酵素の至適反応温度は35℃、至適反応pHは9.0であった。さらに、基質特異性を検討したところ、C10以上の遊離脂肪酸に対して幅広いアミド合成活性を示すことを明らかにした。
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