子嚢菌類では、Velvetタンパク質VeAがグローバルレギュレーターとして二次代謝を制御していることが知られている。そこで、抗腫瘍作用をもつコルジセピンを産生するサナギタケCordyceps militarisの二次代謝におけるVeAの機能を明らかにするために、veA遺伝子破壊株を作成し、トランスクリプトーム解析を行った。恒明条件および恒暗条件下で野生株とveA遺伝子破壊株の遺伝子発現を比較したところ、恒明条件でveA遺伝子破壊株のコルジセピン生合成遺伝子の発現が上昇していることが明らかになった。コルジセピンの産生量も恒明条件で増加し、遺伝子発現量と相関が見られることが示された。このことから、VeAの機能は光に関連していると考えられるが、興味深いことに、恒明条件および恒暗条件において、veA遺伝子破壊株では光受容体の遺伝子発現が顕著に上昇することが明らかになった。これまで、子嚢菌類では光によって核内へのVeAの移行が阻害されることにより、二次代謝が制御されていると考えられていたが、サナギタケにおいてはVeAが光受容体の遺伝子発現に対して抑制的に機能しているという新たな光条件と関連するメカニズムの存在が示唆された。さらに、veA遺伝子破壊によって遺伝子発現が上昇する遺伝子の中には、新規のVelvetタンパク質やメチルトランスフェラーゼLaeAホモログ、PASドメインタンパク質などが見い出され、サナギタケにおいては、これまで知られていた子嚢菌類の二次代謝制御に関わるタンパク質に加えて、新規のタンパク質が二次代謝制御に関わっていることが示唆された。veA遺伝子破壊株におけるこれらの遺伝子発現パターンの変化はveA遺伝子が偽遺伝子化した株でも共通であり、サナギタケにおけるVeAタンパク質の機能を解明する上で、再現性・信頼性の高い結果であると考えられる。
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