研究課題/領域番号 |
21K05364
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小川 拓哉 京都大学, 化学研究所, 助教 (40756318)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ω-3高度不飽和脂肪酸 / エイコサペンタエン酸 / ドコサヘキサエン酸 / 微生物変換 / β-酸化 / タンパク質間相互作用 / 転写調節 |
研究実績の概要 |
ω3高度不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸 (EPA) やドコサヘキサエン酸 (DHA) は人の健康を維持・増進する働きがある。これらの有用脂肪酸の微生物生産系の開発が世界的に進められており、EPA/DHA代謝のより深い理解が望まれる。先行研究において、海洋性細菌Shewanella livingstonensis Ac10が細胞外のDHAを取り込みEPAに変換すること、およびβ酸化酵素がこの代謝変換を担うことを明らかにした。その分子基盤の詳細を明らかにするため、以下の実験に取り組んだ。 1) β酸化経路を介したDHA-EPA変換ではβ酸化が1サイクルだけ行われ選択的にEPAが生じる。また、この過程にはリン脂質合成酵素PlsC1が関与する。これらのことから、β酸化分解とリン脂質合成が共役する可能性を考え、β酸化酵素FadB/FadAとPlsC1との相互作用を検証した。a) これまでに二分子補完法とプルダウンアッセイにより相互作用を分析したが実証には至っていない。これらの手法は弱い相互作用の分析には不向きであり、より高感度な手法を用いる必要がある。また、b) β酸化の初発酵素FadE1とPlsC1の競合実験を目的として、FadE1の過剰発現株を作製した。今後、同株の脂質を分析しDHAがどのように代謝されるか調べる。 2) FadE1の発現はDHA添加時に誘導されるがEPAには応答しない。この特異的な転写調節機構を理解するため、a) 各種脂肪酸の存在下で培養した細胞のβ酸化酵素遺伝子の発現量について、リアルタイムPCRによる解析を進めている。また、b) 本転写調節への関与が考えられる候補タンパク質2種について遺伝子破壊株および組換え発現系を作製した。今後、これらを用いて候補タンパク質のDHA-EPA変換への関与や転写調節の仕組みを調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に計画した通り、β酸化酵素とPlsC1の相互作用、基質の競合関係について検証した、あるいは検証中の段階にある。また、β酸化酵素遺伝子の転写調節機構についても分析に向けた準備を整え、当初の計画通りに次年度にデータを取得する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
FadB/FadAとPlsC1との相互作用解析にはより高感度な手法が必要であり、架橋剤を使用したプルダウンアッセイや、組換えタンパク質を精製して等温滴定熱量計により解離定数を調べる手法を考えている。また、S. livingstonensis Ac10はFadB/FadAのホモログ酵素FadJ/FadIを有しており、これらのDHA-EPA変換への関与やPlsC1との相互作用についても併せて調べる。 β酸化酵素遺伝子の転写調節については、fadE1を対象にリアルタイムPCRの実験系を確立したところであり、今後、他のβ酸化酵素遺伝子についても解析対象を広げる。また、転写調節タンパク質については、遺伝子破壊株におけるDHA-EPA変換を調べて転写調節への関与を明らかにし、組換えタンパク質のゲルシフトアッセイ等により転写調節の分子メカニズムを分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質間相互作用を安価に検証できる二分子補完法を用いて試験し、最終的には偽陽性と判断したデータについて繰り返し検証したため。および、コロナ感染症のために参加予定の学会がオンライン開催となったため。 次年度は高額な試薬を必要とする架橋剤を用いたプルダウンアッセイ、リアルタイムPCR、ゲルシフトアッセイ等の実施を予定しており、それらの購入費として使用する。
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