研究課題/領域番号 |
21K05366
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
炭谷 順一 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (10264813)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マルトトリオース / 配糖体 / 糖転移反応 / α-アミラーゼ |
研究実績の概要 |
天然には有用な生理活性を有するものの,強いにおいや刺激を持っていたり,水溶性や安定性に乏しかったりすることで利用できない多くの化合物が存在する。そのような化合物に糖を結合させて配糖体とすることで,化合物の溶解性,安定性,吸収性および味質などが改変されることが知られている。我々は土壌から分離した放線菌MK-1785株がデンプンを非還元末端側からマルトトリオース(G3) 単位で分解するとともに,生成するG3を水酸基含有化合物に転移し配糖体を合成することが可能なα-アミラーゼ(G3Amy)を生産することを見いだした。本研究では,X線結晶解析を用いた構造生物学的アプローチと変異酵素を用いた酵素化学的アプローチを組み合わせて,本酵素の基質認識や糖転移に関する分子基盤を解明することを目的としている。また,その成果を基に糖転移活性をさらに高めたり糖受容体特異性を改変したりすることで,特異な生理活性を有するG3配糖体の合成プラットフォームを創製することを目指している。 今年度はG3Amyの生産性が悪く,変異酵素の解析が難しくなっていることから,G3Amyとアミノ酸配列が非常によく似たオルソログ酵素をデータベースから抽出し,それらの異種発現を試みることで,解析に十分な生産性を示すオルソログ酵素を同定し,その酵素を用いてG3Amyで同定されたG3特異的な加水分解と糖転移に関与するアミノ酸残基の機能解析を行うことを目指した。その結果,G3Amyと触媒ドメイン内で95%のアミノ酸が一致するオルソログ酵素においてG3特異性がなく,通常のα-アミラーゼと同様にランダムにデンプン鎖を分解することが判明した。そこで,同酵素に対してN192Q変異を導入したところ,変異酵素はG3特異性を獲得している可能性が強く示唆され,Q192がG3特異性の発現に極めて大きく関与していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はG3Amyオルソログ酵素群について遺伝子発現検討を行い,良好に変異酵素の解析が可能なオルソログ酵素を同定する予定であったが,検討できたオルソログ酵素遺伝子は数種であった。しかし,最もG3Amyとidentityが高いオルソログ酵素のひとつであるKitasatospora cineracea由来オルソログ酵素(KcAmy1)遺伝子を大腸菌にて発現させ,発現産物のデンプンに対する作用をTLCにて確認したところ,G3特異性は観察されず通常のα-アミラーゼと同様のデンプン鎖をランダムに加水分解する酵素であることが判明した。G3AmyとKcAmy1の触媒ドメイン内でアミノ酸残基が異なる23か所の中で,以前G3AmyでG3特異性に大きく関与している可能性が示されたN134とQ192のうち,N134はKcAmy1でも保存されているものの,Q192はN192となっており,このアミノ酸残基をQに置換することでG3特異性を獲得できる可能性が考えられた。そこで,KcAmy1に対してN192Q変異を導入した変異酵素遺伝子を大腸菌にて発現させ,発現産物のデンプンに対する作用をTLCにて確認した。その結果,KcAmy1-N192QはG3特異性を獲得していることが強く示唆され,Q192がG3特異性の発現に極めて重要な役割を果たしていることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
数種のG3Amyオルソログ酵素遺伝子について大腸菌およびBrevibacillus choshinensisの発現系について検討し,解析を行うG3Amyオルソログ酵素を決定する。選択されたオルソログ酵素については,G3Amyで同定されたG3特異性に関与するN134およびQ192に加えて糖転移活性増大に関与するL191R変異,G3受容体特異性に関与するF279V/S283R変異などについて検討し,これら活性部位におけるアミノ酸残基の役割の普遍性について明らかにする。オルソログ酵素遺伝子の異種宿主発現について思うような結果が得られない場合は,宿主のコドン使用頻度に最適化した人工合成遺伝子を用いた発現を試みる。 また,L191R変異にnucleophileを破壊したD256A変異を導入したL191R/D256A変異酵素を作製し,G5やG6複合体のX線結晶構造解析を行うとともに,グルコースまたはマルトース共存下でのG5/G6複合体についてもX線結晶構造解析を行うことで,プラス側サブサイトにおけるG3受容体の相互作用部位や,L191Rの糖転移反応における役割について明らかにする。 さらに,G3Amyにおける加水分解反応/糖転移反応を運命づけるスイッチング機構を解明するために,F258A,P259A,F258A/P259Aなどの変異酵素を作製し,加水分解反応と糖転移反応に対する活性の評価を行うとともに,X線結晶構造解析を行うことで糖転移反応のスイッチに相当する構造変化の観察を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
差額が生じた理由は物品費をあまり使わなかったことによる。これは既に保持している試薬等で今年度の実験が賄えたことによるものである。次年度は,合成した配糖体の解析と各種変異酵素精製および反応産物分析のために多量の研究試薬および精製用カラム等が必要となり,それらに使用していきたいと考えている。
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