研究課題/領域番号 |
21K05367
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
伊藤 雅洋 北里大学, 薬学部, 助教 (90596727)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | inerolysin / 膜孔毒素 / Pore-forming toxin / ラクトフェリン |
研究実績の概要 |
近年、腟最優勢細菌が<i>Lactobacillus iners</i>である女性 (日本人女性の約34%) では、<i>L. crispatus</i> (同約42%) と比較し細菌性腟症移行率や早産率、子宮頸がん罹患率が有意に高いと報告された。本研究では、腟常在乳酸桿菌が菌種により上記疾患の成因に相反する作用を示すその作用メカニズムを明らかにする。 <i>L. iners</i>については分泌される膜孔形成毒素inerolysinに着目した。inerolysin精製タンパク質を用いることで、同毒素がヒトの腟上皮細胞にて細胞接着因子E-cadherinを切断することを確認した。一方、同活性は腟上皮細胞をsimvastatinまたはGI254023Xにて前処理することによりその活性を損なわれること、反対に同活性は腟粘膜に存在する亜鉛イオンの共存下では高まることも確認した。すなわち、inerolysinに対する腟上皮細胞のレセプターはこれらの薬剤等が影響を及ぼす分子と示唆された。 一方、<i>L. crispatus</i>についてはラクトフェリンに着目した。ラクトフェリンは血中エストロゲン濃度と正の相関を示す腟粘膜中に存在する物質であり、近年ラクトフェリンの経腟・経口投与は腟粘膜における乳酸桿菌の割合を高め、早産率を低減させるなどの臨床研究が報告されている。<i>L. crispatus</i>の腟分離菌株において、ヒトラクトフェリン (hLf) 含有/非含有液体培地にて培養した菌体を比較したところ、菌体表層構造の変化が認められクリスタルバイオレット染色性は大きく変化することが明らかになった。また、hLf非含有培地での培養と比較し、hLf含有培地での培養によって<i>L. crispatus</i>は腟上皮細胞に有意に接着すること、HβD-2 mRNA量を有意に発現亢進することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまで研究は概ね順調に進捗している。 inerolysinによるE-cadherin切断活性を高める亜鉛イオンの検討については当初計画していなかった。しかしながら、産婦人科の先生方とのディスカッションから着想を得た。亜鉛イオンの腟粘液中濃度は個人差があると報告されており、その濃度範囲において同活性は大きく異なることが今回示唆された。すなわち、女性生殖器疾患の成因に<i>L. iners<i/>から分泌されるinerolysinと腟粘液中の亜鉛イオン濃度が影響を及ぼすと考えられた。 一方、2022年度に研究予定であった<i>L. crispatus<i/>の腟粘膜定着因子の同定については、予備検討結果から予定を変更して先行して研究を進めた。これまでの解析結果から、ある表現型の有無が腟粘膜への付着と相関していると推察され、本活性は他の腟常在乳酸桿菌においても同様である一方、腸管由来の乳酸桿菌ではその活性は認められないことが示唆された。したがって、<i>L. crispatus<i/>の変異株ライブラリーを作製するよりも本表現型に着目し研究を進めることにより、乳酸桿菌の限られた菌種のみが腟粘膜に定着できる普遍的な因子を同定可能と考えられた。 その他は計画通り進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に予定していた<i>L. crispatus<i/>によるinerolysinの病原性抑制因子の同定に関しては、変異株ライブラリーを用いるのではなく複数の臨床分離株を用いて抑制作用と培養上清中の代謝産物との関連を明らかにすることで同定する。 その他は計画通り研究を進める。
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