近年、腟最優勢細菌が Lactobacillus iners である女性 (日本人女性の約34%) では、L. crispatus (同約42%) と比較し細菌性腟症移行率や早産率、子宮頸がん罹患率が有意に高いと報告された。そこで本研究では、腟常在乳酸桿菌が菌種により上記疾患の成因に相反する作用を示すその作用メカニズムを明らかにする。 今年度は、L. crispatus から分泌される過酸化水素について、宿主との相互作用に着目した。 過酸化水素は腟粘膜中に存在し、腟常在乳酸桿菌から分泌されると報告されている。そこで腟常在乳酸桿菌4菌種の過酸化水素分泌能を算出したところ L. iners を除く3菌種から分泌されること、菌株により分泌能は大きく異なることが示唆された。また、過酸化水素分泌能は環境中の酸素濃度により異なり、腟内環境下である5%酸素濃度においても分泌され、腟粘膜において報告されている過酸化水素濃度と同程度であることが明らかになった。 過酸化水素または L. crispatus の腟分離菌株を腟上皮細胞と共培養したところ、細胞の恒常性に寄与するPPARγタンパク質の産生を有意に亢進させた。一方、カタラーゼ処理群ではこれらの活性は認められなかったことから、乳酸桿菌から分泌される過酸化水素は粘膜バリア機能の恒常性の維持にも関与すると考えられた。また、腟上皮細胞の経上皮電気抵抗値 (TEER値) は過酸化水素添加群では非添加群と比較し有意に高かったことから、乳酸桿菌から分泌される過酸化水素は粘膜バリア機能の亢進作用も有すると示唆された。
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