研究実績の概要 |
令和5年度は、前年度に続き採取した湖底表層堆積物中における未培養ニトロスピラ門磁性細菌(以下、本菌と略す)の生育の有無を光学顕微鏡下で定期的に確認した。前年度と同様、本年度においても令和3年3月6日に2Lプラスチック容器6本に採取した湖水および湖底表層堆積物で本菌の生育または生存が確認できた。しかしながら、RNA-seq解析に必要な菌体収量が得られなかったため、本菌の生息環境の有機物および主要溶存無機成分濃度の測定を行い、培養に必要な培地組成の推定を行った。有機物(COD)および主要溶存無機成分(珪酸, 塩化物, リン酸, 硝酸, 亜硝酸, アンモニア, 硫酸, 硫化物, 鉄イオン)濃度は、本菌の生息環境の湖水を水質測定用試薬キット(共立理化学研究所)を使用して測定した。濃度測定に使用した湖水は、6本の堆積物試料を室温、暗所で静置培養し、本菌の生育が確認できた509日目以外にも、0日目、10日目および31日目の湖水も使用して比較検討を行った。各化学種の濃度測定結果から、特に硫黄化合物の濃度変化が顕著だった。硫化物イオン濃度の推移は、0日目は0.1 mg/L、10日目は0.08-0.2mg/L、31日目は0.06-0.1 mg/L、509日目は0.1-0.2 mg/Lで顕著な濃度変化は確認できなかった。しかしながら、硫酸イオン濃度の推移は、0日目、10日目および31日目は検出限界濃度(10 mg/L)以下だったが、509日目は63.3-84.5 mg/Lで濃度が顕著に増加した。本菌の生育が確認できた509日目に硫酸イオン濃度が極めて顕著に増加したことから、本菌が硫化物イオンを酸化して生育することが示唆された。本菌が菌体内に大量の単体硫黄顆粒を形成することも確認できていることから、硫黄酸化細菌と同様の生態的特徴を有する可能性が高い。
|