研究課題/領域番号 |
21K05371
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
中西 昭仁 東京工科大学, 応用生物学部, 助教 (60640977)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞プラスチックス / 光合成微生物 / ゲノム編集 / 代謝改変 |
研究実績の概要 |
本研究では、有用物質を生産させた緑藻細胞を細胞プラスチックスの技術に基づきシート状にし、使用時に細胞内の代謝物を直接的に使用可能な細胞プラスチックス利用プラットフォームの開発を狙っている。 細胞プラスチックスの材料には緑藻細胞そのものを構造体として利用する。細胞は物質生産できるので、細胞を構造体として用いる傍ら、細胞内の代謝をCRISPR-Cas9システムに基づくゲノム編集で改変し、有用物質としてのビタミンEの高生産を目指す。はじめに、プレフェン酸デヒドロゲナーゼ (PDH) 遺伝子と4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ (HPPD) を獲得した。次に、ゲノム編集によるゲノム上の遺伝子導入部位の比較を進め、破壊によりラパマイシン耐性を生む遺伝子を標的とすることにした。緑藻ゲノムへの遺伝子導入には、プラスミドの伝播性回避のため、Cas9ヌクレアーゼを遺伝子DNAと共に直接導入することとした。エレクトロポレーションによる導入について、電圧や印加回数等のパルス条件を改変し最適化を進めている。緑藻細胞をゲノム編集による代謝改変で物質生産を制御することは、様々な有用物質の物質生産の可能性を広げることに繋がるので、緑藻細胞を用いた細胞プラスチックスの利用プラットフォームの開発に繋がるため重要である。 細胞間の接着に関して、細胞内容物の利用開発を進めており、ビタミンEだけでなく接着因子となる物質についても生産効率が向上するよう開発を進めている。内容物の抽出法を最適化させており、分液法の組み合わせにより再現性良く以前より10-50倍程度の回収効率で接着因子を回収できる系の構築に成功した。 将来的には、直接的にフェイスパックや湿布などに応用可能な細胞プラスチックス素材の新規利用プラットフォームの構築を目指している。そのため、安全性の高い細胞からの内容物抽出法の開発は非常に有意義である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、有用物質を生産させた緑藻細胞を細胞プラスチックスの技術に基づきシート状にし、使用時に細胞内の代謝物を直接的に使用可能な細胞プラスチックス利用プラットフォームの開発を狙っている。 緑藻細胞による有用物質の生産に関して、今回はビタミンEを有用物質として注目し、これの生産性の改善を進めた。Chlamydomonas reinhardtiiのビタミンEの生産性を向上させるためには、プレフェン酸からホモゲンチジン酸までの代謝フローの改善が必要である。そこで代謝流束の分岐や、関連酵素のアロステリック効果による負のフィードバック阻害を受回避するため、これらの代謝反応を介さず一足飛ばしに反応を進められるSaccharomyces cerevisiae由来のPDH遺伝子を獲得した。また同時に、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸の代謝も律速であることが知られているのでC. reinhardtii由来のHPPD遺伝子の獲得も終えた。また、ゲノム編集によるゲノム上の遺伝子導入部位の比較を進めた結果、遺伝子の安定性や選抜の簡便性などの理由から、破壊によりラパマイシン耐性を生む遺伝子を標的とすることにした。C. reinhardtiiゲノムへの遺伝子導入には、プラスミドの伝播性回避のため、Cas9ヌクレアーゼを遺伝子DNAと共に直接導入することとしたので、エレクトロポレーションによる導入の最適化を進めている。 細胞間の接着に関して、細胞内容物の利用開発を進めており、ビタミンEだけでなく接着因子となる物質についても生産効率が向上するよう開発を進めている。また現在、内容物の抽出法を最適化させており、分液法の組み合わせにより再現性良く以前より10-50倍程度の回収効率で接着因子等を回収できる系の構築に成功した。 上記のとおり代謝物を直接的に使用可能な細胞の作製に向け進捗が見られたので、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ビタミンEを高生産できる緑藻細胞カプセルを基盤とした細胞プラスチックスを作製し、直接的にフェイスパックや湿布などに応用可能な細胞プラスチックス素材の新規利用プラットフォームの構築を目指している。 緑藻細胞による有用物質の生産に関して、現在までに、ゲノム編集で遺伝子を導入するDNA領域の配列情報や形質転換体選抜のための条件、ビタミンE生産性改善のための遺伝子といった、エレクトロポレーションに用いるための情報や素材の獲得までは終えている。しかし、Cas9ヌクレアーゼと遺伝子DNAを導入するエレクトロポレーションに用いる電気パルス条件のうち、印加回数や電圧、溶液組成に形質転換効率向上のための改善の余地があるため、これらの条件最適化が課題である。そこで、具体的には、既に構築に成功している発現用プラスミドを用いて、印加回数や電圧、溶液組成を対象に電気パルス条件の最適化を進める予定である。細胞間の接着に関して、現在までに細胞間に影響のある内容物の抽出条件の最適化を進めている。しかしながら、現在の手法は分液法に因っていて、効率的に内容物を抽出できているとは言えない。そこで、細胞をより簡便に処理して細胞膜の構造を弱め、細胞内容物を漏出する条件の検討を進めている。現在までに殺処理条件を複数挙げているので、2022年度中に実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
助成金を物品費として利用したが、399円の差額が出た。そこで直接経費の60万円にこの差額を加え、微生物学実験に必要な消耗品の購入または解析に充てる。
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