研究課題/領域番号 |
21K05376
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
平津 圭一郎 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 准教授 (00294538)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 転写 / プロモーター配列 / 高度好熱菌 / シグマ因子 / ショットガンスクリーニング |
研究実績の概要 |
昨年度はThermus thermophilus HB27株のゲノムDNA断片をレポータープラスミドに挿入したショットガンライブラリーを10個用いてプロモータースクリーニング実験を行ったが、本年度はさらに10個のショットガンライブラリーのスクリーニングを行い、合計して571種類の高いプロモーター活性を示すクローンを単離した。ゲノム配列データを用いてこれらのDNA断片に含まれる推定遺伝子(ORF)を確認すると、55クローンは転写の対象となるORFが存在しない偽陽性であった。また、12クローンはCRISPR領域やtmRNAなど、プロモーター部位の推定が難しい機能性RNAを含むためにプロモーター配列の解析対象から除外した。その結果、残りの504クローンを分類すると、190クローンはそれぞれ異なるゲノム領域を含んでおり、残りの314クローンは複数が重複して111種類のORF上流領域を含んでいた。 重複クローンは、1つのORFに対して異なる断片長のゲノムDNAがプロモーター活性を示すので、偽陽性の可能性が低い最も信頼性の高い陽性クローンと考えられた。これら111種類の重複したORF上流の塩基配列を対象にプロモーター配列の推定を行ったところ、110種類がσ70型のプロモーター認識共通配列全体(-35配列および-10配列)と類似した塩基配列を含んでいた。昨年度はORF上流の非コード領域を対象に58種類を解析し、σ70型認識共通配列全体と高い類似性を示す割合は約6割(34/58種類)であったが、今年度は非コード領域に限定せずにDNA配列解析を行った結果、ほぼすべてが共通配列全体と高い類似性を有していた。これらの推定プロモーター配列は、転写対象のORF内やその上流のORF内に位置する例が多数見つかっており、T. thermophilus の遺伝子構造の特異性を表している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平均長0.75 kbpのゲノムDNA断片をレポータープラスミドに挿入したライブラリーでは、約2 Mbpのゲノムを双方向にカバーする場合(カバー率 = 1)は5333クローンが必要である。当初は本実験計画全体のスクリーニングの目安をカバー率 = 3とし、初年度には既存の約1500クローンから成る20個のライブラリーのうち、カバー率 = 1相当の4個のライブラリーのスクリーニング実験を行う目標を立てたが、実験方法の改良により10個のスクリーニングを達成して220種類のORF上流領域を含むDNA断片を同定した。しかし、信頼性の高い重複クローンの58種類に対して162種類は重複しないクローンであること等、スクリーニングは飽和していないと考えられたため、今年度は残り10個のライブラリーのスクリーニングを行い重複クローンの増加を目標とした。計画通りに実験を行った結果、合計504種類のDNA断片を同定し、重複クローンは111種類に増加した。信頼性の高い解析対象が58→111種類に倍増し、その配列データを精査すると、プロモーター配列の推定対象領域を非コード領域に限定せずに、ORF内部まで広げる必要性があることが判った。その結果、110種類の推定プロモーター配列がσ70型の認識共通配列と高い類似性を有する一方で、転写対象またはその上流のORF内に位置する例が多数見つかり、T. thermophilus の遺伝子構造の特異性を表している可能性が示唆された。 本研究の目的は、T. thermophilus特有のプロモーター構造、ゲノム構造の実態を解明し、ゲノム情報を高度に活用するための知的情報基盤の構築へと繋げることであり、その特徴を示すプロモーター候補を、スクリーニング実験を当初計画の倍のゲノムカバー率 = 6相当を実施して100種類以上得られたことから、上記に示す進捗状況の区分と判断をした。
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今後の研究の推進方策 |
既に2年間の実験により、既存の約1500クローンから成る20個のライブラリーすべてのスクリーニングを終了して、当初の本実験計画全体のスクリーニングの目安の倍のカバー率 = 6相当を達成した。その結果571種類の高いプロモーター活性を示すクローンを単離し、偽陽性等のプロモーター配列の解析対象外クローンを除外した504クローンを分類すると、190クローンはそれぞれ異なるゲノム領域を含んでおり、残りの314クローンは複数が重複して111種類のORF上流領域を含んでいた。1つのORFに対してゲノムDNAの断片長および切断部位が異なっても高いプロモーター活性を示す重複クローンは最も信頼性の高い陽性クローンと考えられるため、111種類のORF上流領域のプロモーター配列を推定してその特徴を明らかにすることによりT. thermophilus特有のプロモーター構造、ゲノム構造の実態解明を試みる。今後は以下の計画で研究を進めていく。 「令和5年度」:314クローンのゲノムDNAの塩基配列解析結果により、2種類以上の重複したクローンが存在する111種類のORF上流領域のプロモーター配列が推定されたが、このうち19種類に関しては2個以上のORF上流を含むDNA領域が解析対象になっており、高い精度でプロモーター配列を推定するためには実験的に1つのORFを確定する必要がある。そのために、今年度は19種類のDNA領域をさらに絞り込んでレポータープラスミドに挿入し、そのプロモーター活性の有無を検証する実験を行う。一方、111種類のうち110 にはσ70型のプロモーター認識共通配列全体が存在することを確認しているので、実験結果を随時反映しながら並行してさらに塩基配列の特徴ごとに細分化したグループに分類し、T. thermophilus特有のプロモーターと遺伝子の構造の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画初年度に試行錯誤しながら行った実験工程の改良により使用する試薬類や実験キットが確定したため、一括大量購入による使用額の抑制が可能になった。当該年度は初年度と同等の実験量を行ったが、これらの効率化の結果として次年度使用額が生じた。これは翌年度分の請求助成金額の一割強に相当する額だが、実験試薬類の価格上昇が大きいことから使用計画は従来通りで変更の必要はない。
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