研究課題/領域番号 |
21K05380
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒巻 和弘 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (20271017)
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研究分担者 |
富井 健太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究チーム長 (40357570)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 鉄結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
初年度の研究により、大腸菌で発現したcFLIPタンパク質が“2Fe-2Sクラスター”の形成に関与すること、またシステイン残基(Cys259)をアラニンに置換した変異体では2Fe-2Sクラスター形成の誘導能を失し、代わりにユビキノン還元反応過程の中間体ユビセミキノンの蓄積増加が見られることを認めた。またCys259は、作成した3Dモデルの解析からcFLIPのみに特異的に存在するLYR-triadモチーフの近傍に位置することを発見した。大腸菌からcFLIPのリコンビナント-タンパク質を精製する手法も確立し、次年度以降の生化学的解析が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【cFLIPタンパク質の機能解析について】 遺伝子重複によって同時に派生した他3つのカスパーゼ(CASP8・CASP10・CASP18)には無くcFLIPのみに存在し、且つ脊椎動物間で保存されているシステイン残基(Cys259)に着目し、このシステインをアラニンに置換した変異体“cFLIP(C259A)”を作製した。野生型と共に大腸菌で発現させて電子スピン共鳴装置でそれぞれ測定したところ、野生型が発現すると鉄硫黄タンパク質特有の“2Fe-2Sクラスター”を示すスペクトルの上昇が認められたが、変異体ではそれが無く、代わりにユビセミキノンを示すスペクトルが突出して出現することを特定し、野生型と変異体における違いを見い出せた。次に、構造及び機能解析のため、大腸菌で大量に発現させたヒトcFLIPの野生型とcFLIP(C259A)変異体の2種類のリコンビナントタンパク質精製を試みた。His-tag標識した野生型cFLIPと変異体cFLIP(C259A)をそれぞれ組み込んだプラスミドDNAを大腸菌に導入後、産生されたHis-tag付きcFLIPタンパク質をアフィニティーカラム精製し、野生型については単一タンパク質として予定通り単離できた。変異体cFLIPタンパク質は、現在精製過程途中である。 【cFLIPタンパク質の構造解析について】 研究分担者らが開発したデータベース‘PoSSuM’を用いて、鉄との相互作用するアミノ酸の特定を試み、小サブユニット領域内の複数のアミノ酸が関与する可能性が浮かび上がってきた。またCys259は、cFLIPの立体構造上で特異的なLYR-triad構造の近傍8オングストロームの距離に存在することを作成した3Dモデルより見い出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
【in vitroにおけるcFLIPタンパク質の生化学的解析】 cFLIPが補因子として鉄を取り込むことで、フェントン反応によるヒドロキシラジカルの産生を抑制できるか検証する。ホロ型(鉄結合型)とアポ型(鉄非結合型)のcFLIP、及び鉄結合能を失った可能性のある変異型cFLIP(C259A)の3種類を調製し、これらタンパク質の存在・非存在下にフェントン反応で生じるヒドロキシラジカル量を試験管内で測定する。手法は、食品栄養化学実験法(三共出版)に記載された方法に従う。 【cFLIPの細胞におけるフェロプトーシス抑制効果の検証】 cFLIPの新たな生理的役割として、遊離している二価鉄イオンを捕捉し細胞内の量を調節する可能性が考えられる。この働きによって、細胞内フェントン反応によるヒドロキシラジカルの発生を未然に防ぐことも想定できる。この仮説を立証するため、培養細胞を用いてフェロプトーシスを人為的に誘導した際のcFLIPの抑制効果を検証する。erastin等の化合物を使ったフェロプトーシス誘導系(Dixon et al., Cell, 2012)を活用し、野生型cFLIPと変異型cFLIP(C259A)を培養細胞に強制発現した際のこれら分子によるフェロプトーシス抑制効果を細胞の形態変化を指標に顕微鏡下で観察する。 以上、in vitroの解析結果と併せて、cFLIPの分子レベルでの作用機序を明確にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により研究が一時中断したことにより消耗品の出費が大きく減少したこと、同じく学会への参加を控えたことにより「旅費」と「その他」として見積っていた費用55万円を使わなかったために当初の計画よりも少なくなった。 令和4年度は、実験補助のために1名雇用して前年度よりも労働時間を増やすことから、その費用を前年度の残金から「人件費」として賄う予定である。
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