研究課題/領域番号 |
21K05382
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
小川 貴央 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (80603802)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ビタミンB2 / リボフラビン / 補酵素 / 転写調節因子 / 輸送体 / 環境ストレス |
研究実績の概要 |
ビタミンB2であるリボフラビンを前駆体とするFADやFMNは、生物のあらゆる生理機能に重要な補酵素であるため、細胞内レベルは恒常的に維持されている。植物においてリボフラビンは葉緑体のみで合成され、各オルガネラに輸送された後にFADやFMNが合成されると考えられる。また、これらフラビン化合物の分解系も複数存在しているが、その合成/分解系制御の分子機構や輸送機構については全く不明である。そこで我々は、シロイヌナズナにおけるフラビン化合物レベルの恒常性維持に関わる新規因子を同定するために、細胞内FADレベル変化に応答して発現変動する遺伝子群の網羅的解析、さらにそれら遺伝子の遺伝子破壊株を用いた解析から、植物の種々の環境ストレス応答に関与する転写調節因子のグループに属する一つが、リボフラビン合成系の調節に関与することを見出した。そこで、シロイヌナズナ野生株を用いて、低温、また乾燥ストレス応答などに関与する植物ホルモンであるアブシジン酸処理を行い、同定した転写調節因子の発現量の解析を行なった。その結果、本転写因子の発現はこれら全てのストレス処理によって誘導された。さらにこれらのストレス処理後のリボフラビン合成に関わる遺伝子の発現と細胞内リボフラビン量を測定した結果、リボフラビン合成系遺伝子の発現は、これらのストレス処理によって上昇し、それに伴って、細胞内リボフラビン量も増加した。以上の結果から、同定した調節因子は、植物のリボフラビン合成の制御に関与する新規の転写調節因子であり、また植物の細胞内リボフラビン量と種々のストレス応答との関連性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
◯フラビン化合物代謝調節に関与する新規転写因子FRTF19の生理機能解析 FAD処理後のシロイヌナズナ葉におけるトランスクリプトーム解析および遺伝子破壊株を用いた解析により同定した新規転写調節因子FRTF19について、シロイヌナズナ野生株を用いたストレス応答性の解析を行なった。高温、低温、植物ホルモンであるABA処理後のFRTF19の発現量は、これらのストレス処理後顕著に増加していた。さらに、これらのストレス処理後のリボフラビン合成系遺伝子群の発現および細胞内リボフラビン量を測定した結果、低温、ABA処理においては、リボフラビン合成系遺伝子群の発現上昇と細胞内リボフラビン量の顕著な増加が認められ、FRTF19遺伝子破壊株においてこれらの増加が抑制されていた。一方、高温ストレス処理においてはFRTF19の発現上昇は認められたもののリボフラビン合成系遺伝子群の発現や細胞内リボフラビン量の変化は認められなかった。これらの結果から、FRTF19は種々の環境ストレス応答に関与しているが、その制御下にあるリボフラビン合成の調節にはFRTF19以外の因子も存在する可能性が示唆された。 ◯フラビン化合物輸送体の生理機能解析 リボフラビン要求性酵母変異体を用いたスクリーニングにより、フラビン化合物輸送体候補として単離した2種類のPurine permease (PUP)について、同様の出芽酵母を用いたフラビン化合物輸送活性を評価した。それそれのPUP遺伝子を導入した出芽酵母にフラビン化合物を添加し、添加12時間後の酵母内フラビン化合物量を測定した結果、これらのPUP導入株においては顕著な細胞内フラビン化合物量の増加が認められた。またさらにフラビン化合物添加後、短時間でのフラビン化合物の取り込み活性を評価した結果、PUP-a導入株ではリボフラビン添加後速やかなリボフラビンの取り込みが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
現段階では大きな遅れもなく、研究計画通りに進捗している。したがって、今後は当初の予定通り以下のように研究を進めていく。 ◯フラビン化合物代謝調節に関与する新規転写因子FRTF19の生理機能解析 現在FRTF19についてさらに詳細に解析を行うために、FRTF19の恒常的過剰発現株の作出を行なっている。FRTF19はストレス応答性の転写因子であり、さまざまな環境ストレス応答に関与する可能性があるため、作出した過剰発現株を用いてさまざまな環境ストレスに対する感受性を解析する。また植物細胞内フラビン化合物量と環境ストレス応答との関連性を検討するために、リボフラビン合成系遺伝子群の過剰発現/抑制発現株の作出も進めており、実際に細胞内リボフラビン量が数倍に増加した形質転換体が得られており、今後これらの形質転換体を用いて種々のストレス感受性などについても解析を進める。 ◯フラビン化合物輸送体の生理機能解析 フラビン化合物輸送体候補について、植物細胞内における生理機能を評価するために2種類のPUP遺伝子についてシロイヌナズナT-87培養細胞を用いた過剰発現株の作出を行なっており、現在複数の形質転換細胞が得られている。今後これらを用いて植物細胞におけるこれら遺伝子のフラビン化合物輸送体としての機能解析を進める。また植物培養細胞と並行して、シロイヌナズナ植物体への形質転換および遺伝子破壊株の単離も行なっており、これら植物体を用いての解析も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
人工気象機の購入を取りやめ、また学会等のオンライン化により出張旅費の出費が減少したため。
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